出来れば長くおしゃべりを楽しみたい。
そんな風に思って、約束は今日の放課後になった。

昼休みにあらかじめお菓子を買っておいて備えておく。すごく楽しみで、私の気持ちは少し落ち着いていた。



そして放課後、私は天文科に向かった。月子ちゃんに手招きされ、私は妙な笑みを浮かべながら教室内に入っていく。天文科の人達は私を好奇の目で見ていたけど、特に何か言われることはなかった。

五人で机を囲み、各々用意していたお菓子を広げる。その中で、一番輝いていたのは錫也くんの手元だった。


「お、美味しそう……!」


私は彼が料理上手だなんて知らなかったら、キラキラした目でクッキーと錫也くんを交互に見続けた。そんな私がおかしかったのか、哉太が「お前犬みたいだな」と失礼なことを言って一枚摘みあげる。
「哉太もだよ」というツッコミを入れる羊。哉太と一括りにされてしまった。


「どうぞ」

「いただきます!……お、おいしい!」


さくっとしたクッキーの甘みは程良くて、すごく幸せな気分になる。聞けば、わざわざさっき作ってくれたらしい。
彼は食堂のおばちゃんたちとも仲良しだから、と月子ちゃんが教えてくれた。


「名前ちゃん、さっきのこと聞いてもいいかな?」

「ん?」


錫也くんのクッキーは早々に食べ終えてしまったが、机の上には様々なお菓子が揃っている。
不意に月子ちゃんがそんなことを言うので、私はポッキーを口に入れたまま彼女の顔を見た。
パキ、と一度ポッキーを折る。そして改めて聞き返した。


「さっきのこと、って?」

「一樹会長と。何でもないって言ってたけど、揉めてたように見えたから」


月子ちゃんは私よりも不知火会長のことを知っているから、どうやら彼の言動を不審に思っているらしい。それは私も知りたい。あの星見会から、不知火会長は変だ。


「名前!お前、不知火会長に失礼なことしたんだろ!」


ドン、と机を叩きながら立ち上がった哉太。一瞬、お菓子が宙に浮いた。


「その発言の方が失礼。それにどうして哉太が怒るの?」


あくまで冷静に問えば、哉太は得意気に笑った。一度座り直して、腕を組んで誇らしげに言う。


「不知火会長は俺の憧れだからな」


三人はまた始まったか、というような目で見ていた。私がふうん、と興味なさげに相槌を打ったら、哉太はさらにキレ始めた。話が長そうなので放っておくことにする。


「何か変わったことでもあったのか?」

「ううん。それに私には普通だったよ」


錫也くんが月子ちゃんの方を見る。それに月子ちゃんは首を傾げて「だけど、さっきは確かに一樹会長らしくなかったような……」と続けた。
月子ちゃんが言うならそうなんだろうな、と私はぼんやり考えていた。どうしたんだろう、不知火会長。


「名前にだけなんじゃないの?」


それまでもぐもぐとお菓子を食べ続けていた羊がようやく口を開いた。おい、しゃべったかと思えば言うことはそれか。

冗談はやめてよ、と言おうとしたときなぜか身を乗りだしたのは月子ちゃんだった。


「そうだよ!きっと一樹会長は名前ちゃんのことが気になってるんだよ!」

「っえ!!」


待って待って、落ち着こう月子ちゃん。そんな確信のないこと言っちゃ駄目だよ!
間違いだったら恥ずかしい思いしかしないんだから!


「そ、それはないよ……」

「どうして?」


そんな笑顔で聞かれても困ってしまう。確かに私にだけ対応がちがうのなら、そういう考えに到ってしまうのも分かる気もする。
でも今の段階でそれは推測に過ぎない。勝手に盛り上がることは簡単だけど、それで意識してしまうのは嫌だ。


「月子ちゃんみたいな可愛い子を傍に置いておくんだもん」


私なんてお呼びじゃないと苦笑い。月子ちゃんは返事に困っていたけど、それが見えなくなるぐらい良い笑顔で頷いたのは哉太だった。


「それもそうだな!」


分かってるけど、そこまで納得されるとちょっと切ない。


「おい哉太、そんなに嬉しそうに言うな」

「そうだよ。僕の月子を一人占めなんて許さない」

「お前はこういう時だけ会話に入ってくんな!」


テンポ良く交わされる彼らの会話。私と月子ちゃんはくすくすと笑った。

優しくて暖かな時間。ふっと私の笑いが止まって、静かに月子ちゃんを見た。彼女はまるで女神のように柔らかくてきれいな微笑みを浮かべていた。
それを眺めながら、私は聞くべきかどうか迷った。不知火会長のことも、梓くんのことも。


「月子ちゃん」

「なに?」


丸くて大きな瞳をこちらに向けて、軽く首を傾げる彼女。
思い上がっているのは、私の方かもしれない。自惚れて、思わせ振りな態度を取ることはない。なんて、それは言い訳でただ聞くのが単純に恥ずかしいだけ。


「話を聞いてくれて、ありがとう」


月子ちゃんはううん、と首を振って笑った。

いつか、この学園で好きな人が出来たときは一番に彼女に報告したいと思った。



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テーマ「人外ファンタジー」
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