「名前ちゃん、今度一緒に買い物に行かない?」

「行きたい!新しい服欲しかったんだ。じゃあ月子ちゃんが暇な日をあとで教えて!」


ベンチに座って談笑している私達を見る視線が表すものは様々だった。


「むっ……女子と言うのは不思議なものだ」

「あれだけ渋ってたくせに、名前先輩」

「癒される光景だよね」


弓道部の三人がこちらを見て何か言っているのが分かった。
だけど一応彼らには恩があるので私は黙っていた。月子ちゃんは気付いていないのか気にならないのか、にこにこ笑いながら時間がある日を私に教えてくれる。
ついでに連絡先を交換して、遊びに行く日も決まった。

さて、私にはまだすべきことがある。


「土萌、くん!」


月子ちゃんにもついてきてもらって、私は土萌に声を掛けた。彼の隣には東月くんと七海もいたが、二人にはむしろ聞いてもらいたかったので、私は彼らを引き止めた。
困惑しているような顔で私を見る月子ちゃんを横目に、私は三人の前で頭を下げた。


「ごめんなさい」


いまさら遅いかもしれないけど、月子ちゃんに言ったら嫌われるかもしれないけど。
だけど黙ってこのままというのはいけないと思った。月子ちゃんの隣に並ぶなら、事後になってしまったが、土萌に話を聞いてもらわなければ。


「月子ちゃんと友達になった。あの時は勝手なことばかり、悪く言って、」


段々語尾が弱くなる私の言葉を、土萌はぴしゃりとはね除けた。


「月子は、君にも渡すつもりはないよ」


なんだか微妙に論点がずれているような気もしたが、彼は月子ちゃんを誰にも取られたくないのだろう。それこそ性別なんて関係ない。女友達も、自分との時間が少なくなるから邪魔なんだと思っている。


「わ、私は!」

「友達?僕の月子への気持ちはそれよりも強い」


だけど、私もこのまま引き下がるわけにはいかない。どうせなら認めてもらいたい。
月子ちゃんと、厚かましいけど土萌、それに東月くんと七海とも。


「じゃ、じゃあ私も仲間に入れて!」

「はっ……?」


言葉が出ないような顔で止まってしまった土萌。私は今しかない、と必死な笑みを浮かべながら力説する。


「いまさら調子のいいこと言うなって言われるかもしれないけど、みんなと仲良く、したい。土萌くんのことも知って、それで応援するっ……」


言ってることはめちゃくちゃだ。自分でツッコミを入れたいぐらい。
だけど口に出てしまった言葉をいまさら訂正することもできなくて、私はどう!?と言いたげに土萌を見つめた。

ぽかん、とした土萌に変わって、反応してくれたのは二人の方だった。


「はは。羊、いいんじゃないか?」

「錫也……」

「月子も嬉しそうだし、そこまで頑なに拒む理由はもうねぇだろ?だがな名字、羊を応援してやることはねぇぞ」

「そう?じゃあさっきのはなかったことで」


友好的な態度に、私は安心した。東月くんと七海が私に笑いながら話し掛けてくれるから、同い年だし、軽い言葉を叩いてみる。


「ちょっと……!」


それに本気で焦っている土萌を見て、三人は声を上げて笑った。私も便乗して笑みだけを浮かべていたら、不意に土萌の視線が私に刺さった。
びくり、笑みが消えてしまった私の顔を見て、土萌は後頭部に手を添えながら溜め息をつく。


「分かったよ」


え、と私が反応する前に、土萌の手が私に差し出された。


「よろしく」

「うん!土萌くん、」

「羊でいいよ」

「あ、ありがとう!」


嬉しさのあまり、私は両手で羊の手を握った。ツンとした顔は変わらないけど、態度は十分柔らかくて、周りの人達も微笑ましく見守ってくれているようだった。


「名前って呼んでもいいか?」


初めて会ったときと変わらぬ笑顔で私にそう言ってくれた東月くんに、私は笑顔で返した。


「いいよ」

「じゃあ俺もそう呼ぶぜ」

「えっ……!」


それに七海も乗ってきて、なぜか驚いていたのは羊だった。


「二人のことも下の名前でいいよ」

「なんでお前が言うんだよ」


月子ちゃんがそう言ってくれて、「ほら」と呼ぶように催促されてしまった。遠慮がちに二人を見れば、うん、と頷いてくれた。
恥ずかしいぐらい温かくて、ホッとしてしまう。


「錫也くん、哉太に、羊!」

「おい、なんで錫也だけ!」

「人徳の差じゃないのか?よろしく、名前」

「……ったく。おい、羊。お前も名前を見ろよ」


一人だけそっぽを向いていた羊に哉太がうざいぐらいに絡んで、やっと観念したかのような声音で羊が口を開いた。


「……名前っ!」


ぱああ、と嬉しくなる私に、微笑んでいる月子ちゃん、そしてしてやったりと笑う彼ら。
どうやら除け者は嫌作戦だったらしい。


あんなに遠かったのに、どんどん近付けている。

この光に負けないように、私なりに頑張っていこうと心の底からそう思えた。


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