自分の教室が近くなってきて、私は一抹の不安を覚えた。
だけど歩くのを止めない。笑うのを止めない。そのまま、私は教室へ入った。
「名字!大丈夫か!?」
「えっ……?」
数人の男子生徒が私の方に駈け寄ってきて、私はついぎこちなく止まってしまった。
だけど彼らはそんな私を不審には思わず、「良かった」と安堵していた。
「戻ってこないんじゃないかって心配してたんだ……」
「泣いてたみたいだけど、もう平気か?」
「ったく、あいつ何様だよ!名字を……うちのクラスのやつ泣かせやがって!」
君達の言葉で私は泣いてしまいそうだよ。
土萌に言われたことなんて忘れかけてたのに、彼らは私のことを気にしていてくれてたんだ。
私が戻ってくるのを心配してたなんて、今までそんなことなかったのに。どうしよう、すごく嬉しい。
「あ、あのっ……」
「ん?どうした?」
「怖いのか?心配すんな、また来たら俺らで追い返してやるから!」
「っていうか、さっき見てるだけで悪かったって話だよな……ごめんな」
次々謝ってくる彼らにちがうよ!と言って顔を上げさせた。
今更だけど、私は彼らと初めて話す。彼らも勢いだけで私と話しているように思えて、私も緊張していた。
ぱくぱく、言いかけて誤魔化す。だけどここで負けちゃだめ。私は、変わるの。
「あ、ありがとう……」
改めて言うお礼って、こんなに恥ずかしく思うものなんだ。
もっと堂々と、笑顔で言いたかったのに私は赤い頬を隠したくて俯いてしまっていた。
声も小さく、彼らに聞こえるかどうか。うう、予定が崩れていく。
「い、いいよお礼なんて!」
「そうだよ!顔上げろって!」
「クラスメートなんだから、当たり前だろ!」
彼らの顔も赤くなっていて、照れているのを誤魔化すように大口で笑い出した。
私はそれがおかしくて、一緒になって笑う。伝染したかのように、他のみんなも声を上げていた。
教室がこんなに居心地がいいものなんて、知らなかったよ。
「陽日先生ー」
「どうした、名字」
「この前言ってた課題、他のグループに入れてもらうことになったんですけど、大丈夫ですか?」
「お、おお!任せとけ!」
その時の陽日先生の泣きそうな笑顔を、私は忘れない。