一人でこんなに笑うのなんていつぶりだろう。思い出し笑いなんて恥ずかしいと思って、私はいつも仏頂面でいた。そんな様子を見られていて、冷淡女なんて呼ばれているのだろう。
今日から、少しでも変わればいいな。
「名字先輩」
「あ、梓くん」
教室へ戻ろうと廊下を歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、私の顔を見て一瞬目を丸くした梓くん。
「ずいぶん、吹っ切れた顔してますね」
「え、そう……?」
鋭いなぁ、なんて思いながら私は笑った。こんな些細なことでも笑いたくなってしまう。
だめだ、今の私は壊れている。
「そんな風に笑ってる顔、始めてみました。すごく可愛いですね」
「あ、ああ梓くん!?」
「ついでに真っ赤になってるのも。どうしたんですか、今日。百面相ですよ」
あはは、と梓くんが無邪気に笑った。私が顔を真っ赤にしているのを見て、彼はさらに調子を良くしたようだった。
この前会ったときより、梓くんは自然に笑っているように見えた。心を開いてくれている、そうだったら嬉しい。
「今度、一緒にご飯食べない……?」
梓くんの笑顔を見ていたら、いつのまにかランチに誘っていた。私なりに勇気を振り絞ったのだ。
返答が怖くてびくびくしている。
「いいですよ」
頷いてくれた梓くんにホッとして、私は言葉を続けた。
「じゃ、じゃあ翼くんも誘って!屋上庭園で!」
「翼もですか?」
「う、うん!」
「分かりました。僕から言っておきますので、日時はまた後ほど」
「ありがとう!」
立ち話をしていたら、時間がなくなってしまいそうだ。呼び止めてごめんね、と言って私は先を急ごうと梓くんに手を振る。
「名字先輩」
すると、梓くんが私を呼び止めた。
「天気が良い日に、星を見に行きませんか?」
「私と……?」
じんわり、胸が温かくなる感覚。確かめるように言えば、梓くんが頷いて、当たり前じゃないですかと言った風に笑った。
「はい。名字先輩と僕と、二人で。嫌ですか?」
「ううん!楽しみにしてる!」
一生懸命力を込めて言えば、梓くんに笑われてしまった。つられるように私も笑みを零す。
私は、今が一番楽しいかもしれない。