「んっはぁ…、あぁ…っ!」
三週間の空白とは恐ろしい程の快感を生む様で、真正面から抱き込まれる様にして穿たれながら、土方はせり上がる息を押し殺す事も出来ず、銀時に縋りながら弱々しい矯声を上げるばかりだ。
何よりこの甘ったるい匂いがいけない。
予想される長期の激務に支障を来す訳には行くまいと、出来るだけ顔を合わせずにいようと気を回していた筈なのに少しでもこの匂いが鼻を掠めた途端にこの様だ。
自分にはこんな腑抜けた感情は不似合いだと思いつつも、銀時の前ではそれが意図も簡単に崩れ去る。
体の奥底から沸き上がる眩暈がする程の強い快感をやり過ごそうとすればする程、疼く下肢は銀時の熱を締め付けるばかりで。
目を閉じて眉根を寄せていた銀時が、ふと赤く濡れた目を開いて土方の顔を覗き込む。
途端、ドキリと跳ね上がる心臓。
「はっ、いーい顔…っ」
「あっ、う、るせ…んんっ」
銀時は顔中に口付けを落としながら、この三週間分を埋める様に土方の中へぐいぐいと己の熱を埋め込んでいく。
思えば自分らしくもなく小難しい事を考え込んでいた間、土方とて無感情な訳もなく、己と同じ様な思いでいたのだ。
ならばもっと早くに押し切りにくれば良かったのだと、今更ながら後悔をする。
(勿体ねぇことしたじゃねぇか…)
銀時は心の中で自分に小さく舌打ちをしながら、土方を責め立てる動きを激しくしていく。
「あ、あ、はぁっ!よ、ろずやぁ…っ」
「やらし…っ」
どうやら未だ少し薬の効力は残っている様で、土方から発せられる吐息は淡いピンク色を保っている。
それがまた妙に艶めかしく、甘い香りが漂って来そうな程だ。
「あぁっ!はぁ、は…っ」
「え……?あれ……?」
視界に妙な違和感を覚えて、銀時は自分の目を疑った。
土方の口から漏れる矯声が増えれば増える程、色を濃くしていくその吐息。
「ん、ん、は…っあ、な…に・・・っ?」
「いや、ちょ…っ!見、見えね…!」
薄ピンク色だった筈のそれは、土方の受ける快感が増すにつれて変化している様で、いまやそれは銀時の視界を完全に覆い隠しショッキングピンクの塊と化していて。
もはやそれは煙幕だ。
「えっ?な、んだおま…!んぁっ…はっあっ」
「待て待てちょっコレ…!あれ…?あれぇぇぇぇっ!?」
ゴ イ ン ッ !!!
* * * * *
「ズビバゼンでした…」
あの後、真っ最中に突然絶叫してぶち壊した銀時は、ぼこぼこに殴り倒された挙げ句、腕を組んで仁王立ちしている土方の足下へ正座をさせられていた。
「あの…ちょっとした出来心で…」
「そんなくだらねぇモンに手ぇ出しやがって!てめぇはアホか!!このクソ天パ!!」
「くだらなくねぇっつの!お前があんまり冷てぇから大事な恋人がアブナイ遊びに手を染めるんじゃねぇか」
「どこがアブナイ遊びだ馬鹿野郎!ガキの遊びよりアホくさいわァッ!!」
一から細かに事の経緯を吐かせた土方は、青筋を浮かべながらその余りの馬鹿馬鹿しさに盛大に溜息を漏らした。
大体なんなのだ、自ら半ば強引に土方の中へ入り込んで来たと言うのに、肝心な所で弱腰になるこの男のこういうどうしようもない所が気に食わない。
土方は自分の事など棚に上げて銀時へ散々に説教を浴びせた。
銀時も銀時で折角久々だったそれを中断してしまった事がこたえているのだろう、不満そうにしながらもなかなか素直にその説教を聞いている。
「…くっく、情けねぇ面しやがって」
それを見た土方が、口の端を吊り上げて含んだ様な笑みを浮かべた。
「おら」
「あでっ」
ガツンと、銀時の肩を蹴りつけて後ろ手を着かせると、え、と思う間も無く土方はその足の上へどっしりと跨った。
(ナニィィィィイッ!?)
「お前、そんなに俺が信用出来ねぇか?」
乱れた裾の袷もそのままに、土方は白い太股を惜しげもなく晒しながら、銀時へ向けてふぅっと薄桃色の名残を残す煙草の煙を吐き出した。
固まる銀時をそのままに、土方は言葉を続ける。
「テメェ、誰を捕まえたと思ってやがる、見くびんじゃねぇぞ」
すりりと、露わになったままの白い脚を銀時の腰元へ擦り寄せながら、土方は唇の端を挑発的に上げて見せた。
煙草を傍らの灰皿へ押しつけて火を消すと、銀時の首へ両腕を巻き付けて引き寄せる。
「二度とそんなくだらねぇ気起こさねぇ様に叩きこんでやる…覚悟しやがれ、銀時」
「!!!(まじでか…!!)」
(一発解決どころじゃねぇ…!!!)
今回ばかりは坂本の無謀な依頼に感謝をしながら、銀時はここぞとばかりにリベンジに勤しんだ。
後日。
「土方くーん」
「だっからおめぇは予告なく入ってくんのヤメロっつってんだろうが!!」
「今度はコレ試そうぜ、コレ」
「聞いてんのかてめぇ…!んな胡散臭ぇもん俺は御免だ」
「胡散臭くねぇよ。ただちょっと耳が生えたり尻尾が生えたりするだけだって」
「十分胡散臭いわァッ!味しめんな!!」
−END−
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