「ふぃ〜」

銀髪に巻いた手拭いを外し、絡んだ髪に手を突っ込みながらもさもさと適当に整える。
完璧に取り替えられた新品のベランダ柵を満足気にぽんと叩いた所で、銀時の視界にジュースの缶がずいと出現した。

「あの、ありがとうござました、どうぞ…」

「いやぁ、いーのいーのこれっくらい」

「まだ荷物整理してなくて、こんなんしかないですけど」

遠慮なく受け取った缶ジュースのプルタブを空け中身を煽っている銀時の横で、すっかり綺麗に取り付けられたアルミ柵を物珍し気に見てはぺたぺたと触っている。

銀時はすぐ近くにあるその横顔をじぃっと眺めた。

(こりゃ見れば見るほど…)

半ば条件反射の様にがっついたその第一印象を裏切る事なく、男にしておくのは勿体無い程繊細に整った顔の造りだ。
サラサラと風を通す綺麗な黒髪に肌理の細かな白い肌、儚げに伏せられた長い睫が少し気の強そうな双眸を縁取っている。

(やばいよ銀さんコレどストライクじゃね!?)

張り付いた様な視線を送りながら、何歳なのかだとか、何してるのかとか、彼女か、はたまたもしや彼氏でも居るのかなとか、邪な思考を巡らせ始めた所で、

「あの・・・」

不意に食らった上目遣い。

(ブフォア…ッッ!!!!)

「なんか随分、手慣れてるんですね」

「…は?いやいや、あの、ホラ俺これでも器用だからっつーか、コレ…」

勝手に受けたダメージでばくばくと高鳴る心臓を押さえながら、銀時は尻ポケットから少々曲がってしまった一枚の名刺を取り出して、ころころと顔色を変える銀時に怪訝な表情を向けている土方へ手渡した。
受け取った名刺の文字列を追った土方の顔に、より濃く怪訝の色が浮かぶ。

「……なんでも、屋…?」

「そうそう、一応は本業の一つってことで、とりあえずお見知り置きを」

「あぁ、だから…」

随分と手際良く進められていた作業を思い返して、土方はやっと納得と言った表情を浮かべる。
それでもどうにも、この男を見ていると、

「胡散臭・・・」

「うわヒド。これでも結構仕事の依頼あんのよ?土方クンの依頼なら銀さんなんでも受けちゃうよ、痴漢撃退とかストーカー撃退とか夜這い撃退とか色々…!」

ずずいと迫りながら捲し立てる銀時に、土方が仰け反る様にして一歩大きく後ずさった。

「ちょ、待て待てなんでそんなんばっか!?」

「うんまぁところで、土方くんは…」

言いながら銀時はその手首をがしりと両手で鷲掴む。

「彼氏いるの?」

「………は?」

「彼氏」



ガツンッ!!!



「痛ァッ!!」

「アホか!!いねぇよそんなもん!男だぞ何考えてやがんだてめぇっ!!」

「ズ、ズミマゼン…じゃあ彼女は?」

「いねぇよそんなも…っ!」

言ってしまってから土方はハッと自分の口を塞いで固まる。
勢いとは言え、会って数時間の赤の他人にこんな余計な宣言をするなど気まずい事この上ない。
赤面しながら顔をしかめる土方に対して、銀時は殴られた鼻から血を流しながらもへらへらとなんとも締まりのない表情だ。

「いやいやうん独り身かそうか…それじゃあお近付きの印にこれからお茶でも…」

「ギャーッ寄るなー!!なんなんだお前!もうヤダあっち行け!帰ればか!」

先程までしおらしくジュースを差し出していた姿は何処へやら、土方はげしげしと蹴りを入れながら玄関へ銀時を追いやる。
鼻を押さえつつも暫くぎりぎりと粘っていたが、銀時はいよいよぽいと外へ放り出されて締め出されてしまった。
ガチャ、ガチャンと、二重に鍵を掛けられる音が響く。

(美人は怒った顔も美人…)

初対面の相手にグーパンチを繰り出す手の早さと予想外の口の悪さなどなんのその。
銀時は明日からの"ご近所付き合い"をどうしようかと、ムラムラとした想いを馳せながら脳内シミュレーションに勤しんでいた。




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