暗転した視界。

いつの間にか景色が変わっていて、
いつの間にか布団に寝かされていて、

気が付いたら、恐い顔をして自分を見下ろしている吉良と目が合った。

「ここ…どこ?」

「ベタな事聞かないで下さいよ、先輩の部屋です」

そう言われても記憶があやふやでどうしてこの状況なのかが理解出来ない。
全く把握出来ていないこちらの顔を睨みながら、一層眉間の皺を増やした吉良が口を開いた。

「どうして先輩はこうも自分の体調が悪いのにすこぶる鈍いんですか、気付けなかった僕も僕だけど、こんな時の嘘ばっかり上手くなってどうするんです、大体39度近くまであったんですよ、普通だったら立ってるのさえ辛いでしょうにアナタは全く…気絶した人間運ぶのって重いんですよ、もっと自分の体の変化に敏感になって下さい、心臓に悪い」

まくし立てる様に説教を放った吉良の声に頭が追いつけず、少しクラリとする。
そう言えば昨晩から寒気がして、肺の辺りが苦しくて、頭痛がして、関節に痛みが出始めたと思ったら、一日中ふわふわと宙を歩いている感覚がしていた。
ついでに言うと今も、

「怠い」

「当たり前です!!」

キーンと、吉良の声が鼓膜を突き抜けた。

「その内治るだなんて思わないで下さいって何度言ったら分かるんですか」

まるで子供に言う様な小言を浴びせながら、それに反して手つきは優しく背中を支えて起き上がらせてくる。
枕を腰に宛てがわれると随分楽だった。
なんだか優し過ぎてどうしたらいいか分からなくなる。
ふと壁掛けの時計を見て、そう言えばまだお互い職務中だという事を思い出した。

「…悪ぃ」

「謝らないで下さいよ」

「仕事途中だろ、お前も疲れてんのに…」

「元四番隊ですよ、僕の自己管理ナメないで下さい」

「ははっ…そうだな」

さらりと掻き分けられた前髪に額をそっと合わせられて、瞑り損ねてかち合った目に心臓が跳ねる。
寝乱れて緩んだ着流しの袷を更に開かれて晒された胸元に、するりと吉良の冷たい掌が滑り込んだ。

「っ!ちょ・・・!」

「そんなに構えないで下さいよ、病人相手に手なんか出しませんから。ただの鬼道です」

じんわりと、熱を伴った吉良の霊圧が肺にまで流れ込んで来る。

「はっ…熱…っ!」

(うあ…なんかコレ、気持ちいいかも…)

胸を擦る吉良の手が肺に蟠っていた息苦しさを吸い取っていくようで、ずっと浅かった呼吸が深いものに変わっていく。

「ありがとな、随分楽だわ」

「これでも元四番隊って言ったじゃないですか、これで大人しくしててくれればすぐに治りますから」

それに緩く頷く。
施しを終えた手に着物を直されて、弛緩した体をゆっくりと横たえられるのに身を任せた。
ふわりとした心地良さにぼんやり吉良の顔を眺める。
苦笑いを浮かべながら吉良がこちらへ腕を伸ばす、頬に触れる右手。

「そんな物欲しそうな顔しないで下さいよ」

「なっ!」

耳元に降りてくる吉良の薄い唇。

「もしかして、ヤラシイ期待でもしてました?」

「馬鹿野郎っ!」

カッと更に熱の昇った耳を押さえて、ひっ掴んだ布団を引き上げて背を向けた。
吉良が小さく笑っているのが空気の揺れで伝わる。

「寝付くまであちらの部屋に居ますから、何かあったら呼んで下さい」

立ち上がった吉良が部屋を後にする直前、

「しっかり休んで早く良くなって下さいね、でないと続き、出来ませんから」

一言とどめを刺して、パタリと障子戸を閉めて出て行った。


(あいつ…余計寝られねえんだよ馬鹿!!)



終わる

後輩の癖に余裕綽々な吉良が好きです。
修兵はとにかく振り回されて甘やかされてればイイジャナイ。←
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