バタバタと部屋の主を探して、浴室の曇り硝子越しに見つけた貴方の影に安堵して、とっさの言い訳を用意する。
「あ…拳西さん着替え、置いときますね…」
「あぁ悪ぃな、来てたのか」
あちら側でも、逃げる様に滑り込んだ現世でも鬱々とした雨は止む気配は無くて、ガレージの中には平子さんも白さんもみんな留守で、遠雷と、陽の射し込まない部屋と、がたがたと窓を揺らす風が拍車を掛ける。
真冬の雨に打たれたせいかも知れない、酷く心細いと思うのは。
「修兵、お前も来い」
最大の原因は今自分を困らせているこの人で。
だけれどそれを打開出来るのもまたこの人で。
「でも・・・」
ちょっとした期待と少しの警戒を含んだ声音は自分が思うよりも多分情けないんだろうと思う。
「遠慮すんな」
「わっ!」
目の前でいきなり風呂場のドアが開いて、にょきりと伸びてきた手に手首を掴まれた。
培った反射神経もこの人の前じゃ何の役にも立たない。
「来いよ」
ただ雨が降っていて、暗くて、寒くて、ほんの少し疲れてしまっていて、死ぬ程貴方の顔を見たいと思ってました、それを素直に伝えるのには些かシチュエーションの刺激が強過ぎる。
優しい様で追い詰める様な見透かした声音には、いつだって逆らえたことなんか無くて。
「ほら、修兵」
「…で、も、俺は後で」
「何言ってやがんだ、びしょ濡れじゃねぇか」
「すぐ乾きます…」
「暖めてやるから来い」
「・・・」
「…何もしねぇよ」
「・・・嘘・・」
俯いたまま呟いた声は相変わらず情けなくて、貴方が苦笑いを漏らす気配が伝わった。
「あぁ、嘘だ。色んなことしてやるから、来い」
立ち上る湯気に絡め取られながら強く引かれる腕。
たったこれだけで冷えきっていた全身が芯からじんわりと弛緩してしまう自分は、どうしようもなく拳西さんが好きなんだと思う。
終。
ぼんやりとしたお話になってしまいました。
雨だの冬だの、二人でお風呂でいちゃこらしてればいいさ…!