修兵へ貸してやる約束をしていた現世の分厚い漫画雑誌を手に、平子は拳西の自室のドアをコンコンと叩いた。

「修兵ー、おるやろ?」

「あぁ、開いてんぞ」

中から平子の呼び掛けに応答したのは、修兵ではなく拳西の声だ。

(おらんのかいな…?)

物音一つしない事に首を傾げながら、拳西の部屋の扉を開ける。

「邪魔すんでー」

「おう悪ぃな、今動けなくてよ」

「…なんや、修兵寝とんのか」

見れば、部屋の中央に据え置かれたソファーで仰向けに寝そべる拳西のその上へ、修兵がぴったりとうつ伏せに張り付いて寝入っていた。

映画でも観ていたのだろうか、音量を落として流されていた映像を、拳西は傍らのリモコンで一時停止にする。

「途中で寝ちまってな」

「爆睡やんけ」

「疲れてんだろ、こっちに来ててもなんだかんだ忙しいからな…」

それに同意をしながら、平子は拳西の胸元へ頬を付けて熟睡しているその顔を覗き込んだ。
完全に身を預け切って随分と気持ち良さそうに寝ている。

「可愛い顔しよって、こうして見とるとガキん頃となんも変わらんなぁ」

「まぁな。…おい、触んな、起きちまうだろうが」

「えぇやん、こんぐらいで起きひんやろ」

平子は晒されている側の頬をツンツンと突付いた。
滑らかな肌の感触と程良い弾力が指先に伝わる。

「うお、なんや懐かしいな」

修兵がまだ幼かった頃、柔らかなその頬を散々にいじくりまわして、挙げ句あまりのしつこさに泣かれた時の事を思い出しながら平子はにやにやとその顔を崩した。

少しずつ大胆になるちょっかいに修兵の眉間へ皺が寄り始めたその瞬間、



ガブリ



「!痛ァッ!!」


口元を突付かれた拍子、修兵がその指先へ噛みついた。

いくら普段子供扱いをする事はあれど、大の男に加減なく噛みつかれれば、痛い。

「ほら見ろ、自業自得だ、嫌われたぞお前」

「ちょ、イダダッ!見とらんとなんとかせんかい拳西!」

なんとも愉快そうに眺めていた拳西は、修兵の鼻をちょんと摘んでやる。
ぐぐっと眉間の皺を濃くした修兵は息苦しくなって平子の指を解放すると、そのまま逆側へ顔を背けて再び寝息を立て始めた。

「かーっ!こいつほんまに寝とんのかいな…」

「寝てても嫌なもんは嫌なんだろ」

「…なんやお前に言われると腹立つな」



終わる

うちの修兵は、なんでも良く噛むイイ子です。

……。


『骨格〜』の甘噛みとは別次元の渾身の噛みつき。
なんかこんなんばっかりだなー…。
真子が持ってるのは勿論ザンプ。
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