七色無限の皮膜が弾ける、午後の陽射しが差し込んだ窓際。


緩やかな午睡を吹っ飛ばす様な慌しい足音が近づいて、うるさい位の音を立てて部屋の扉が開け放たれた。

「拳西さん!遊んで!」

今時その辺のガキんちょでも言わないような誘い文句に脱力して、拳西はゆったり身を預けていたソファからずるりとずり落ちた。
妙に浮かれながら近付いて来る修兵はそれを気にする風でもなく、右手にぶら下げたビニール袋から何かを取り出して拳西の目の前へとそれを翳す。
パッケージに書かれている品名を目にした拳西の頭へ、クエスチョンマークがちらついた。


キャンディバブル:グレープ味


一瞬いかがわしい薬の類かと思ったそれは、どうやら菓子のようで。

「…なんだそいつぁ」

「さっき白さんから貰いました、甘いシャボン玉だそうですよ」

現世の珍しい駄菓子にいたく魅力を感じたらしい修兵は、それを試したくてうずうずしているのだろう。
目を輝かせながら期待一杯の面持ちで拳西へと視線を投げかけている。
その顔がまるきり幼少時代の修兵のそれで、拳西は思わずふっと小さく吹き出した。

「俺は甘いもんは食わねぇぞ」

言いながら修兵の手首を掴みいざ窓際へ。
昼寝を遮られようとも菓子を好まぬとも拒めないのはなんとかの弱みで。
拳西に箱の中身を一式手渡して座り込んだ修兵は、すっかりシャボン玉の味見待機だ。
しかしいざ渡してはみたものの、無骨な指が可愛らしいプリントの施された小瓶とカラフルな細いストローをつまんでいる様がなんだか妙にちぐはぐで、その姿に今度は修兵が吹き出した。

「笑いやがったな、遊んでやんねーぞ」

そう言ってふっと管へ息を通せば、不揃いな泡の風船が幾つも風へ舞い上がった。

「あ、ちょ、風強!」

ようやく一つ口に入れた修兵はなんとも微妙な顔をする。
どうやら一つじゃ分からないらしい、不意に拳西へ悪戯心が沸いた。

今度は修兵の横顔を目掛けて、勢い良く吹きかける。
パチパチと修兵の頬で弾けた甘い匂いのする皮膜、その香りを追うようにして頭をぐいと引き寄せた。

「っ!!!」

真っ赤に茹で上がった修兵が、これでもかと目を見開いて左頬を押さえた。

「な、舐め…!!」

してやったり、拳西の口角がニヤリと吊り上がる。

「甘ぇな」

舌に淡く残ったのは、人工的でチープな偽物のぶどう味。


終わる


男二人でシャボン玉遊びをする痛々しさ。

書いてる私がいたたまれない…。
こんなお菓子ありましたよね?
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