「檜佐木さーん帰ろ痛ッテェ!」
ガラッと勢い良く教室の扉を開け放った恋次の顔面に、飛んできた上履きの靴底が命中する。
「うっせぇ!起きちまうだろ!」
己の顔に直撃して足下に落ちたものを投げ返そうと振りかぶった恋次を、小声で怒鳴るという妙な芸当を披露した一護の声が制止した。
「は?・・・あ、なに檜佐木さん寝てんの?」
「阿散井くん声大きいよ」
「バッカやろこれでも小声なんだよ」
一護と修兵と一緒になって教室の窓際の席で屯しているイヅルが小声で恋次を窘める。
そんなやり取りも何処吹く風、当の修兵本人は机の上に乗せた両腕の間に顔を半分埋めてすっかり爆睡中だ。
放課後に四人で連れ立って新しく出来たたい焼き屋に行こうと誘った言い出しっぺの恋次が、部活顧問に呼び出された故に三人はその帰りを待ちながら教室でダラダラと時間を潰していた。
修兵はその間に眠ってしまったらしい。
「起こすのもったいねぇじゃん」
一護はちゃっかり修兵の目の前の席に陣取り寝顔をじっと眺めている。
「さっきからこればっかりだよ」
その脇で暇そうに本をめくりながら呆れ混じりにイヅルが呟いた。
「檜佐木先輩の口半開きなんだけど・・・」
「可愛いじゃんか」
「・・・」
「ほー、どれどれ。よっこいせ」
そう言いながら恋次は上履きを返すついでに持ち主の頭をそれで一発はたいて、文句を言う一護を押し退けながら修兵の前へどっかと腰を下ろした。
ヨダレでも垂らさんばかりの無防備さで熟睡するその顔は、なるほど確かに可愛いと恋次もそれを覗き込む。
「んー・・・」
「お、起きるか?」
「……ん、恋次…」
「(((寝言…!!?)))」
「んん…あっ、右、…ちが、んっ、反対…」
「せ、先輩!なんて卑猥な寝言を…!」
「おい修兵!なんの夢見てんだ!教えろ!詳しく!」
「ちょ、檜佐木さん!それ俺!?相手俺っすよね!?」
「うるせぇ駄犬!だまれ!」
「んー………お手」
「お手…?」
「…プッ!」
修兵が呟いた一言に一護がぽかんと口を開けて、イヅルが吹き出した。
「え…、俺…」
ピシッと頭から罅を入れて固まった恋次を指差しながらイヅルが肩を震わせている。
「阿散井くん良かったじゃないか、先輩に飼って貰えて」
「俺…先輩のなんなんだ…」
数分後@たい焼き屋にて
「あ、ウマい」
「だろ!?」
十分な睡眠を取って恋次に奢られている修兵は、たい焼きを片手に上機嫌だ。
「いやーしっかし修兵って寝言言うのな」
「え、俺なんか言ってた?」
「なんかって言うか、」
一護はちょいちょいと修兵を手招きしながら、その耳元で何かを呟いた。
不思議そうな顔をした修兵が、恋次の前でぱっと掌を差し出す、
「お手」
「ハイ」
恋次の左手がコンマ数秒で乗せられる。
「「「・・・」」」
「フッ」
哀れみを含んだイヅルの乾いた笑みが恋次へと投げられた。
「あ゙あ゙ぁぁぁーーーーっ!!!」
一人で大声を発して頭を抱え出した恋次に、修兵がびくりとその手を引っ込めた。
「…なに、アレ」
「いや、本能には逆らえないっていうかなんていうか」
「先輩は気にしなくていいですよ」
−終わる−
悲しい条件反射