つい一週間程前にここを訪れた時と似ている様な、少し違う類にも感じる様な緊張感を持って修兵は阿近の研究室の扉を開いた。

「阿近さん」

自分を呼ぶ声に振り返った視線の先、扉の前へ立つ修平の姿を見て、阿近は僅かに目を見開く。
そこにはもうあの見慣れた院生服ではない、護廷十三隊の正式な死覇装に身を包んでいる修兵の姿があった。
切りたての時よりも幾分か馴染んだ黒髪に、まっさらな死覇装の黒が良く映えている。
修兵は卒院を報告した時と同じように、阿近の前へ来て真っ直ぐに一礼した。

「本日、護廷への入隊式に出席して参ります」

「あぁ、…似合うじゃねぇか」

阿近の言葉に顔を上げた修兵は、嬉しそうにその表情を綻ばせた。
それを見た阿近の胸中へ、じんわりと熱いものが広がっていく。

(巣立つ子供を見守る親の思いってのは、こんなもんなんだろうな…)

などと、ガラにも無い様な事を考えてしまう。

「修兵、手出せ」

差し出された修兵の手の上へ、阿近は小振りな包みをぽんと渡した。
開けろと促されるままに中身を取り出せば、阿近に預けたままでいた装飾具だった。

「あれ…なんか三個に増えてませんか?」

「一つはお前が付けてた物だが、もう二つは腕用だ、手首でも二の腕でもいい。入隊祝いだ、持ってけ」

「へぇ、なんか、ありがとうございます」

首に付けていたものと同じ素材で作られているのだろうか、もう二つも質量の軽い黒い金属製だと言う事が分かる。

「そいつにはちょっとした仕掛けを施してある、お前にしか使えないもんだ」

首を傾げる修兵に阿近は卓上のガラスケースに入れられているレプリカを指差すと、そこへ鬼道を発動させる時と同じ霊圧を掛けてみろと促した。
訳も分からず修兵がそれへ従った途端、ケースの中でバチバチと大きな爆発音を立てて金属の塊が消失した。

「な…っ!危なっ!こんな物騒なもんつけてたら危ないじゃないですか!」

「だからお前にしか扱えないって言っただろう、髪から派生した霊圧の識別情報を組み込んである。心配すんな、軽い護身用だ、多分死にゃしねぇ」

「多分って言った…?」

「冗談だ。それと、」

修兵の手から一つを取り上げると、阿近はそれをかちりと首へ巻き付けた。

「え、まさか首のもそうなんですか!?」

「あぁ、デカイ分腕よりも多少威力は増すだろうが、心配すんな、誤作動はしねぇ。それにこれは、俺の霊圧情報も組み込んである」

修兵の細い首へ巻き付けたそれを、指先でするりと撫でる。
阿近を見上げたまま、修兵はその背筋へ何かがゾクリと走り抜けるのを感じていた。

「お前の命、俺に半分預けろ」

阿近は自分の髪を一房摘んで示しながら、片方の口角を吊り上げた。
途端、修兵の耳へかっと朱が昇る。

「なんだそれ、強烈…」

落ち着き無く視線を彷徨わせながら、自分の首へ当てられている阿近の手を誤魔化すようにぐっと掴んだ。
初めて示された、阿近らしい異常とも思える程熱烈なまでの束縛欲。

「こういうのは嫌いか?」

「嫌い、じゃない…」

「そうかよ」

小さく首を横へ振りながらも狼狽する修兵を見下ろしながら、阿近は不敵な笑みを口元へ浮かべている。



入隊直前に投下されたとんでもない愛情表現に別の意味で落ち着きをなくしてしまった心臓を、式の直前、修兵は必死の思いで宥めていた。



















− 了 −



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