歴史と威厳を讃えて眼前へ聳えるこの霊術院の門を、院生として潜るのは今日で最後だ。
長い様で短かった院生時代を過ごしたその学舎を、修兵は胸の内から沸き上がって来る積年の思い出と万感の想いに目を細めながら見上げていた。
雪の様に無数の桜の花弁が散り、暖かい風に靡く艶やかな黒髪へ舞い降りながら、修兵の頬をくすぐるように撫でていた。








得体の知れない怪虫が潰れた様な鳴き声を発するこの不気味な呼び鈴には、何度訪れても慣れる事がないどころか、毎回鳥肌が立つ。
修兵は例外なく今日もぞわぞわと耳に残る怪音をやり過ごしながら、技局の門を心なしか緊張した面持ちで潜り抜けた。

着慣れた院生服の袷をきゅっと正して、左手には光沢のある黒い紙製の長筒と浅紫の小振りな風呂敷包み。

目当ての人物がいるであろうその部屋の前で、一つ呼吸を整えて、修兵はノックをしたその扉をそろりと押し開いた。

「阿近さん、います?」

「おう、修兵か、入れ」

ちょうど休憩に入っていたのだろうか、阿近は片手に煙管を持ちながら椅子から立ち上がり振り返る。
手招かれるまま部屋へ滑り込んだ修兵は阿近の一歩手前で立ち止まると、姿勢を正してゆっくり頭を下げ一礼した。

「本日、霊術院を無事卒業致しました」

下げられた頭を見下ろした阿近の口元が、僅かに緩む。
普段はどこかちゃらんぽらんで抜けている部分も多々あるが、修兵はこう言った礼節を蔑ろにせずきちんと重んじている。
阿近は自然と目を細めながら、その頭をさらりと撫でて顔を上げさせた。

「ああ、おめでとう」

いつになくストレートな阿近の言葉と柔らかな眼差しに、修兵は幾分も照れ臭さを覚えつつ素直に感謝の言葉を述べた。
修業の証書が収められている紙筒を阿近に手渡しながら、修兵はもう一つ荷物に持っていた風呂敷包みを顔の横へ掲げる。

「阿近さん、お願いがあるんですけど」

手渡された証書を広げて眺めていた阿近が顔を上げる。
見れば、修兵は鎖骨の辺りに掛かっている長い髪を一束掬ってつんつんと引っ張っていた。

「なんだ」

「髪、切ってくれませんか」






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