食事を、と言っても今の体で何が食べられるのか全く見当が付かない。

(肉食猛獣だからやっぱり生肉なのかな…?
でも元々人間だから生とか絶対お腹壊すんじゃね!?
…でも焼いたら油とか調味料とか体に悪そうだし、
あ、そう言えば動物って葱とか刺激物はダメだよな
…って人間じゃん!!じゃなくて今は虎と豹だった…!
いや、あれ?あああああ混乱してきた…!!!)

そんなわけで、
プスプスと頭がショートしそうになった修兵は早々に諦めて、とりあえず冷蔵庫の中にある食材を順番にそれぞれの鼻先へ近付けて反応を窺う作戦に出た。

冷蔵庫の前に立つ修兵の横に、きちんと大きな体で行儀良く並んで座って待っている姿がなんだかいじらしくて可愛らしい。

結果、

それぞれの好きなものから試してみるも、殆ど興味を示さないまま難しい顔をされてしまった。
プリン、サラミ、昨日のシチューの残り、トマト、キャベツに生卵、その他諸々全滅だ。

見慣れたものに食指が動かないことに当人達も首を傾げていたが、じゃあやっぱりと修兵が差し出した鶏のささ身肉に二人してピコンッと耳を立てながら目を輝かせていたのでやはりこちらが正解なのだろう。
因みに、阿近がつまみ用で奥に隠していたブルーチーズを出した時には、飛び跳ねるようにして一目散に部屋の隅へ逃げられてしまった。
『((くっさ!!))』という唸り声と共にガウガウと吠えながら前足で鼻を擦る二人に、確かネコ科は人間の数万倍の嗅覚だったことを思い出す。

「あ、忘れてた、ごめんごめん」

慌ててチーズを元の場所へ戻して冷蔵庫を閉じる。
ともかく食べられるものは判明したものの、猛獣二頭でささ身が1パックでは到底足りる筈もなく。
修兵は未だ部屋の隅で鼻をひくつかせながら固まっている拳西と阿近へ、絶対にベランダに出ないことと大きな音を立てずに大人しくしていることを言いつけて食料の調達へ出掛けた。






「……え、」


重みで千切れそうになる腕に耐えながら引き摺るように大きな買い物袋を提げて帰宅した修兵は、リビングに足を踏み入れた先の光景にピタリと固まった。
大人しくしていろとは言い置いて出たが、大人しいどころか二人して気持ちよさそうにお昼寝の真っ最中だ。
巨体が部屋の真ん中で寝るにはローテーブルが邪魔だったらしく、無残にも大雑把に隅へ追いやられてしまっている。
昼寝に入る前に暇を持て余していたのか、拳西の寝室に置いてあるはずのバランスボールが何故かキッチンの方まで転がっていて、動物園のネコ科動物が檻の中でよく大きなボールで遊んでいたのを思い出した。
もしや二人仲良くボール遊びにでも興じていたのだろうか、その光景を逃したのかと思うと悔やんでも悔やみきれない。

(くっそー動画…!!スマホ置いてけば良かった俺の馬鹿!!!)

そう項垂れるも、逃してしまったものは仕方が無い。
それよりも今はこの光景をカメラに納めなければ。
テーブルを退かしたラグの上を占拠して、ゴロンと仰向けに寝転がり並んで腹を晒しながらなんとも無防備に寝入っている光景の破壊力たるや。

(これが噂の”へそ天”!!)

ネコ科が最もリラックスしている時に見せるネコ科好き憧れのポージング、へそ天。
しかも、迫力満点の巨体で仰向けを披露する拳西の脇の下辺りにハマっている阿近はどうしてか足と頭を逆にして寝ていて、夢でも見ているのだろう時折ピクリと跳ねる後ろ足が拳西の顎やら口元の辺りをげしげしと蹴っている。
拳西は拳西でむず痒いのかよほど腹が空いているのか、大きな舌をべろりと出してはしきりにもごもごと口を動かしていた。

「…仲良しかよ」

余りに愛しさの限界点を突破すると人は真顔になるのか、修兵は鬼気迫る無表情で瞬きもせずにスマホのカメラのシャッターを連打する。
時々悪戯にもふもふの腹の上へみかんを乗せてみたりクッションを置いてみたり。
阿近の腹に黒いリモコンを乗せた時には色が同化してヒョウ型リモコン状態になった挙句、ティッシュ箱を乗せられた拳西に至っては長い毛足で箱が埋もれてしまうせいでモコモコの巨大ボックスティッシュカバーになっていて思わず吹き出した。

「こんな猛獣見たことない…」

何枚納めたか分からなくなるほどフォルダがお昼寝ネコ科画像で埋め尽くされる頃、修兵はいよいよ欲求に負けて魅惑的なモコモコのお腹目掛けてダイブした。




修兵のダイブで目を覚ました拳西と阿近に纏わりつかれてせっつかれながら、どうにか食事の支度を終えた。

立ったまま易々とキッチンカウンター越しに修兵の手元を覗ける拳西に反して、阿近には少々そこは高いらしく、前足をカウンターへ乗せてバランスを取りながら後ろ足だけで立っている。
それが些か癪に障るのか、腹癒せに拳西の横顔へべしべしと猫パンチを浴びせていた。

執拗にちょっかいを出しつつ返り討ちに遭うことを学習しないのは、人でも豹になっていても阿近の悪い癖で。
バクンッと拳西の大きな口に前足を食べられた瞬間、”ビッ”と全身の毛を逆立てて後ろへすっ飛び背中を向けて丸まってしまった。
拳西にしてみれば『(しつけぇな)』程度で仕返ししたただの甘噛みなのだが、如何せんその口の大きさだ、哀れ阿近のすらりとした前足は丸々収まってしまう。
留守中にしても生肉を皿に盛っている今にしても、人がカメラを構えられない時にシャッターチャンスを披露するのは止めて貰いたい。

そんなこともありつつ、ワイルドに生肉を平らげる迫力に驚きながらになんだかんだでようやく本日一食目の食事を無事に終えることが出来た。






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