「あー…ここ…天国かな…」


片や、密林の王者であるネコ科最大級の猛獣、それも非常に稀な白変種のホワイトタイガー。

一方、砂漠や熱帯雨林で広く狩人として生き、獰猛性と人気を誇りビッグ5と称される豹、それも黒変種。
幼い頃から憧れを抱いていた愛してやまない猛獣に挟まれて、修兵は至福の溜息をほうっと吐き出した。


ソファから降りた修兵はのそのそと四つ這いで拳西へ近付き、まふっ、と音がしそうな勢いで飛び付いてその首元に顔を埋めた。

(やばい…やばいやばい気持ちいい!!!)

全身を白く豊かな毛皮で覆われている巨体にしがみ付き、その肌触りと温かさを堪能しながら、ぐりぐりと顎の下辺りに頭を押し付ける。
野生ではないから…というのは変な話かもしれないが、獣特有の匂いは殆どなく、代わりに干したての布団のような陽だまりの香りがするような気がする。
しかし、熾烈な生存競争を生き抜く為の身体構造はしっかりと持ち合わせているわけで、致命傷を避ける為に柔らかく弛んでいる首元の皮膚は健在だ。
もふもふたぷたぷとしたなんとも言えない感触が堪らなくて頬を摺り寄せていれば、恐らく拳西も気持ち良いのだろう、猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしているのが何だか可愛らしい。
そんな二人の様子を横でつまらなそうに眺めている阿近を手招きすれば、長い尻尾の先を左右に振りながら近付いてきた。
ゆったりと足を運ぶ度に浮かび上がる背骨の曲線がなんとも無駄がなく綺麗だと思う。


拳西の腹へ背中を預けて埋もれながら両手を伸ばせば、阿近がするりとその腕の中へ上半身を滑り込ませて、ぺたりと修兵の胸元へ顔を伏せた。
そのまま、ぐるりと甘えるように一度喉を鳴らす。

「かっわいい!!」

優に2メートルを超すか、3メートル近いであろう拳西に比べれば随分小柄に見えるが、それでも猛獣なりの重さはそれなりにある。
気を使ってか全体重を預けないように凭れて来る阿近をぎゅうぎゅうと抱き締めて、しなやかな背中から尻尾までを何度もわしわしと撫でた。
両手で撫で下ろす度に左右にパタパタと細かく揺れる尻尾の先が可愛くて仕方ない。

「…なんか、いつもの阿近さんより素直で可愛い」

思わずそう呟けば、フンッと抗議の息を漏らしながら修兵の顎の辺りを鼻先でくいくいとつついた。
しっかりと生えているネコ科特有の髭がチクチク刺してちょっと痛い。
それを宥めながら、修兵は後ろ手に拳西、前に阿近の毛皮の手触りを比べてひたすら撫で擦った。

「おぉ、同じネコ科でも違うんですねー」

指がすっかり埋まってしまうくらい厚みがあってふわふわとした虎の毛に比べて、豹はしなやかな見た目と同様しっとりとして艶やかな密度の濃い毛皮を湛えている。
それでもさすが同類と言うべきか、猫っ毛であることは共通らしく、もふもふと柔らかな毛並はいつまででも撫でくり回していたい手触りだ。
余りに修兵が感心して触り続けるせいで興味が湧いたのか、拳西が大きな前足を伸ばして阿近の背中へばふっと下ろす。

『(ぐぇっ)』

拳西にしてみればただ"触ってみただけ"なのだろうが、さすがの巨体の持ち主なので前足だけでもそれなりの重さだったのだろう。
ガウッともぐえっとも言えない呻き声を上げた阿近は、仕返しとばかりにしなやかな尻尾の先で拳西の鼻の辺りをべしりと高速で叩いた。
なるほど樹上でバランスを取るための尻尾はやはり器用だ、ピンク色の鼻の先端をヒクヒクさせながら迷惑そうにしている拳西の仏頂面が可笑しい。
せっかくこれだけ精悍な顔立ちをしているのにネコ科の仏頂面はなかなかの不細工だが、そんなギャップも愛嬌だ。
修兵を挟んでなんだかんだと小さな喧嘩をしている様は、獣の姿になっている今でも人間の時と変わらなくて思わず笑ってしまった。
そんな光景に拳西の腹の上で肩を揺らして笑っていれば、修兵のちょうど後頭部の辺りで『ぐうぅ〜きゅるる…』という情けない音が響いて思わず目を丸くする。
もしかして…と振り返り見上げた先、拳西は少々気まずそうに情けなく眉を下げながらくたりとラグの上へ顔を伏せてしまった。

「そうだった…、ご飯まだですもんね」

そう言えば、阿近の方からもきゅるきゅると控えめな音が響いて思わずぷっと吹き出してしまった。
見れば、こちらも同様なんだか覇気のない表情をしている。

(動物でも人間みたいにお腹鳴るんだ…!!)

何度も繰り返し読んだ図鑑には載っていなかった意外な猛獣の生態に、修兵はなんだか得をしたような気分になって可笑しそうに笑った。







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