獣化とネコ科動物苦手な方はご注意ください;↓
「かっっわいい…!!!」
三人で囲んだ夕飯も終え、まったりと緩んだ空気が流れるリビングに修兵の大きな声が響いた。
ソファーとローテーブルの間に腰を下ろし、腹にクッションを抱えた状態でテーブルに置いたマグカップを握り締めながらプルプルと震えている。
食器洗い当番のためにキッチンに立っていた拳西が何事かと顔を上げれば、修兵は何やらむずがゆそうな表情で目を輝かせながら食い入るようにテレビ画面を見つめていた。
「なにこの生き物…可愛い…丸ごと食べたい…かじりたい…かじられたい…」
後半に少々物騒な台詞が聞こえた気がしたが、修兵に倣ってテレビを見ればまあそれも納得かと思えるような映像が映し出されている。
週に一度、世界中の珍しい動物を特集している番組で、専門的な知識や身近なペット事情、赤ちゃん特集に至るまでその内容は多岐に渡り、動物好きの修兵が気に入って良く見ている番組だ。
今週はちょうどここ最近国内の動物園で産まれた赤ちゃんを特集しているようで、どうやら修兵はその内の一つにいたく興味を惹かれたらしい。
「ねぇ!拳西さん見て!!可愛い!!」
バッと拳西の方へ顔を向けて修兵が指を差す先を見れば、ホワイトタイガーの赤ちゃんが四匹ころころとじゃれ合っている所だった。
拳西からしてみればそんな映像にキラキラと目を輝かせてクッションを抱えている修兵の方が可愛いのだが、ここでちゃんとリアクションを取ってやらなければ絶対に拗ねる。
その証拠に、興味がないのか馬鹿正直に適当なリアクションを返して修兵から早々に見捨てられた阿近が面白くなさそうにだらしなくソファで俯せていた。
「おー、可愛いな。この動物園確かそう遠くないんじゃねぇか?」
実際に虎の赤ちゃんも可愛いしテンションの高い修兵も可愛いと思うのでそう返答してやれば、案の定嬉しそうな表情を浮かべて画面に視線を戻す。
「そうなんですよ!はぁー…見てみたい、ネコ科動物ってなんでこんなに可愛いんだろ…」
「早く行かねぇと大きくなっちまうな、今度車で連れてってやるよ」
「ホントですか!?やった!!拳西さんと動物園デート!!」
そんな修兵の言葉にガバッと顔を上げた阿近が、じっとりと剣呑な視線で拳西を睨み据えていた。
(おっ前卑怯だぞ…!このキザ野郎!!)
完全に出遅れた阿近のそんな台詞が聞こえて来そうなその表情に、拳西はフッ唇の端を歪めてニヤリと勝ち誇ったような笑みを向けた。
そんな旦那二人の無言の攻防も知らず、修兵はホワイトタイガーの動きに逐一リアクションをするのに忙しい。
そんな光景を眺めつつ洗い物を終えた拳西は、二人の間に混ざるべくソファへ足を向ける。
長身を投げ出してそこを占拠している阿近の足をゲシッと蹴って落とした。
「いってぇな!!」
ずり落ちそうになりながら文句を言っている阿近を余所に隣の空いたスペースに座れば、前のめりにクッションを抱えていた修兵がその後頭部を拳西の膝にコテンと預けて来た。
「あぁー可愛かった。拳西さん約束ですよ、今度行きましょうね」
「おう」
せっかくだから弁当を作って準備万端で行こうと色々計画をし始める修兵に、阿近がそれなら俺も行く俺の分も作れと駄々を捏ね始める。
それへ"さっき興味ないって言ったクセに!"だの"子供か!"だのと突っ込みを入れつつ結局またじゃれ合っている二人に呆れた笑いを浮かべていた拳西が、いつの間にか虎から猿の赤ちゃんへ移行していたテレビへ視線を戻してハテと首を傾げた。
虎の赤ちゃんが映らなくなったと同時にテレビから興味をなくしたらしい修兵に、画面を指差して尋ねる。
「こっちには興味ないのか?」
「んー…可愛いとは思いますけど、やっぱり俺ネコ科の動物が一番好きなんですよね」
「そんなもんか」
「そうです」
そう言ってパチンとテレビを消してしまった修兵が、何やらまじまじと拳西の顔を見上げて観察し出した。
「…拳西さんがネコ科だったらそれこそホワイトタイガーって感じですね」
「なんだそりゃ」
「逞しい所とか、あとこれも銀髪だし」
そう言って、修兵は下から伸ばした手で拳西の銀髪をわしゃわしゃと撫でる。
阿近はそんな修兵の首根っこをガシッと捕まえ、持ち上げる様にして己の方へ引き寄せた。
ぐえっと潰れた呻き声を上げる修兵を羽交い絞めで抱え込み、後ろから喉元をくすぐってやればじたばたと暴れる。
「お前は猫そのものって感じだけどな」
「ちょ、やだって…!」
「だったら阿近は黒豹だな」
そう言いつつ拳西が修兵の腕を取って阿近から解放してやれば、ほっと息を吐いた修兵があぁそれ分かると言いながら収まりの良い場所を探して座り直した。
「虎よりひょろっとしてるし、目付き悪いし、黒いし」
「…おい喧嘩売ってんのか」
「はっ、ぴったりだな」
修兵の言葉に拳西が笑えば、阿近はいかにも納得のいかない渋い顔をする。
その後も、動物園とネコ科談義は妙に盛り上がってしまって、修兵がやたらマニアックな知識を披露したり果てはお隣さんもネコ科っぽいだのなんだの、翌日が休日なのを良い事にだらだらと喋りながら三人が床へ就く直前まで続いていた。
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