うちはペットでも飼っていたかと、目の前の光景を見ながら拳西は黙々と卵を掻き混ぜていた。

カウンターの向こう、リビングの窓際でまとまって寝転がる修兵と阿近は、同じ色のスウェットを着ているせいでまるで日光浴をする家猫だ。
大きな窓のすぐそばで仰向けに転がる阿近の腹の上へ、クロスに重なるようにして修兵が腹這いに重なっている。
キッチンから漂う良い香りに釣られて目を覚ました修兵に引き摺られるように起こされて、洗顔やら着替えやら全て世話をされ尽くした阿近が絶好の日向ぼっこスポットに敗北してからずっとこの調子だ。
すっかり日も昇って暖まっているフローリングが気持ち良いのか、ゴロゴロと喉の鳴る音まで聞こえて来そうな程である。
修兵にべったりと腹に乗られて少々苦しそうにしながらも、退けようとしないどころか、目の下の隈をつついたり少し痩けた頬の肉を引っぱっている修兵の指に時折がぶりと噛み付こうとしたり顎で挟んだりして遊んでいるようだ。
正直羨ましい、このままあの上からダイブして混ざってやろうか、しかし修兵を潰しかねないのでそれは断念することにする。
そんな子供じみたことを考えている間に、手にしていた食材はあっという間に形を変えて三人分の朝食兼昼食の出来上がりだ、我ながらなかなかの手際だととりあえず自分を褒めておいた。

「おい、飯にすんぞ」

皿をテーブルへ運びながら声を掛ければ、阿近の上でごろんと仰向けになった修兵が両手を上に伸ばしている。
どうやら起こせということらしい。
阿近の緩さが伝染したような修兵にふっと笑いそうになりながら呆れた溜息を吐いて近付く。
腹の真ん中に体重を掛けられてぐえと唸っている阿近の上から、真上に突き出されている両腕を掴んで軽々引き上げた。

「うおっ!拳西さんめっちゃ強い!」

自身の腹筋も使ってぴょこんっと起き上がると、子供みたいに楽しそうな声を上げる。
直後、今度は阿近からにょきりと両腕が伸びて、修兵と共に吹き出した。
真顔でそれは止めて貰いたい。

「…お前もか」

「……」

試しに片腕だけを掴んで引き上げてみるも、協力する気が一切ないのか完全に脱力している体はぐらぐらと振り回されて揺れるだけで全く起き上がる素振りを見せない。
ゴリゴリと背骨が床板にぶつかる鈍い痛みにムスッとした顔をしている阿近の両腕を、修兵と片方ずつ掴んで引き摺ることにする。
捕らわれたなんちゃらかんちゃらのように両腕を引かれてずるずると引き摺られながら、いい大人が『ケツ、ケツが見える』とボソボソ文句を言いつつも無抵抗で指定席まで運ばれた。

「お前のケツは見たくねぇぞ」

「うっせぇ」

とりあえず自力で動かずに済んだことに満足したのか、腰からずり下がりかけたスウェットを引き上げながら大人しく席に着いてすっかり食事待ちだ。
拳西作、ふんわりと黄色く膨らんだ渾身のチーズオムレツをぼーっと眺めている辺りまだまだエンジンが掛かるまでには時間がかかるらしい。
この調子じゃ恐らく修兵が一日くっついて離れないことは目に見えている、と言うことは必然的に己が家事当番になるのだが、修兵が嬉しそうなのでそれも良いだろう。
仕方ないながらそう納得して、拳西はいただきますの号令をかけた。

「今日はこれからどうすんだ、丸々休みだろ?」

キャベツのコンソメスープを啜りながらなんとなしに休日の予定を修兵へ尋ねれば、暫く考えた末に着ているスウェットの胸元を引っ張って見せた。

「じゃあ…このままも一回寝ませんか?三人で昼寝したい」

少し眉尻を下げて遠慮がちに笑いながら提案する修兵に、阿近がもぐもぐとトーストを齧りながら、

「ん」

と、さっきまで転がっていた窓際を指差した。
どうにも其処から離れ難いらしく、昼寝の場所にはあの日向をご所望らしい。
カーテンを開け放っている窓の外を見れば雲一つない晴天で、引き籠るには少々惜しい天気ではあるが、確かにあの日当たりも暖かさも魅力的だ。
出掛けるにしても約一名が稼働していなければ三人でというわけにはいかないし、ゆったりと休日を過ごすには絶好の環境かもしれない。

「しょうがねぇなぁ」

そう口にしながらも、大判のブランケットを持ち込んで…枕は二つで良いだろうか、レースのカーテンだけを引いてしまえば日に焼け過ぎることもないだろう…日向ぼっこ兼昼寝の為の準備を簡単に頭の中で組み立てていく。
なんだか大きな猫二匹の飼い主にでもなった気分だ。
緩い空気を醸し出している二人に中てられて、拳西の方にまで忘れていた眠気が再び蘇ってきて漏れそうになる欠伸を噛み殺す。

「…さっさと飯食って寝るか」

そう言う拳西の言葉に、修兵と阿近はそれぞれオムレツを頬張りながら満足そうに頷いた。




― END ―



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