「起きたか?」

「…え、」

もそりと動かした体。
ベッドにしては少し狭い、自分を抱える腕と、視界にはとっくに動きの止まっていたであろうランドリー。

修兵は弾かれた様にしてガバリと上半身を起こす、その拍子に拳西の上着が肩から少しずれ落ちた。

「俺、ずっと寝てました!?」

「まぁ二時間ちょっとか」

「すみません…」

「気にすんな、陽も当たるし、気持ち良さそうだったからな」

外の景色は夕方に差し掛かっている、陽の落ち始めた気温を肌が感じ取っていた。

「あの、ずっと…」

「なんだ」

「上着…」

「ああ」


バッチン


「うお痛ぇ!」

「うあ、拳西さん冷えてるじゃないですか!」

修兵は思い切り拳西の顔を両手で挟んで声を上げた。
掌に伝わるのは時間の経過を物語る体温で、それに反して修兵の手は随分と暖かかった。

「お前寝てる時は今でもガキみてぇに体温高いからな」

−毛布代わりになった−そう言って笑われる。

「…」

「おら、行くぞ」

「拳西さん」

「あ?」

「馬鹿ですね、」

「酷ぇな」

また小さく笑いながら、ずれてしまった修兵のマフラーをぐるぐると巻き直してやる。
すっかり乾燥まで終わった洗濯物を籠と袋にぎゅうぎゅうに詰めて。

「あ、晩飯どうすっか」

「あ」

「二人でどっか食いに行くか?」

「そんなことしたらまた文句の嵐ですよきっと」

「ちっ」

「鍋、がいいです、拳西さんのやつ」

「あー…出来に文句言うなよ?」

「言いませんよ、美味しいですもん」

「しょーがねーな」



* * * * *



「拳西さん、明日もお天気いいみたいですよ」

「おお、そうか」

リビングで天気予報なんぞを見ながらすっかり鍋待ちの修兵、とその他の面々。

「おぉーほんじゃあ電気屋にでも行って来ぃ拳西」

「あたし一番新しいのがいいなぁ〜なんでも洗えちゃうやつー!おっきいのー!」

今朝の騒ぎは何処吹く風、事態の元凶を作り出した真子と白が言いたい放題騒いでいる。

「うるせぇぞ!お前らがなんとかしろ!壊しやがったのはどこのどいつだ!」

「そうやハゲシンジ!買ってこおへんかったらお前らごとあれに突っ込んで粗大ゴミで捨てたるからな!!」

「えぇ〜やだーだって外寒いもーん」

「せやせや」

全くもって聞く耳を持たない二名に朝と同様の青筋を立てながら、拳西は握っている包丁をぎりぎりと握り締めた。
それに唯一気付いている修兵がおろおろと場を鎮めようとするも効果はなく、それどころか先程からリサに捕まり下着の件で事細かな感想を求められ狼狽えていた。
挙げ句履かせようかと強行手段へ踏み出したリサとそれに悪ノリをした真子と白に、拳西の堪忍袋の緒がぶっつりと音を立てて焼き切れた。
面白がって修兵を羽交い締めにしようとしている真子の顔面スレスレで、銀色の何かが矢の如く横切ってテーブルに突き刺さる。
蛍光灯の光を反射してギラリと鈍く光る出刃包丁を見た面々が、同時にぴたりと凍り付いた。

「真子、修兵に触んな、アホが移る。大人しく待ってねぇとお前ら晩飯抜きだからな」

本気でキレた拳西に、立ち向かえる猛者はいない。

せっかくの逢瀬を散々なものにされて頗る機嫌を損ねている拳西は、明日はなにがなんでもこいつら全員締め出して暖かい室内で修兵を一日中思い切り構い倒してやろうと固く心に決めていた。




−END−


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