酒臭さが染みついた衣服をばさばさと脱ぎ捨てて浴室へ足を踏み入れれば、冷たいタイルが火照った裸足の裏からひやりと体温を奪う。
今から浴槽を洗って風呂の準備をする作業が酷く億劫だったので、とりあえず熱めに設定したシャワーのコックを捻って湯だけを浴びることにした。
そもそも酔った状態で風呂に入るのもシャワーを浴びるのも余り感心しない行為なのだろうが、散々飲み歩いてそこかしこの匂いが移ったまま寝ることの方が耐えられない。
長湯をするわけではないし、やはりさっぱりした状態でベッドへ入った方が酔いが醒めるのも早いだろう。
そう踏んで、拳西は頭から湯を浴びながら豪快に洗髪をして体を洗い始めた。
久々だからと言って少々飲み過ぎてしまったが、修兵が外でリラックスして楽しんでいる姿を肴にしながらの酒はなかなかに良いものだったと、未だ酒気の回る頭でぼんやりと思い返す。
ボトル半分ほど冷えた水を煽ったものの酒を抜くには当然足りる筈もなく、酔いに任せて随分と緩んだ頭になっている己を自覚しながら、拳西はふと、物足りなさを覚えて首を傾げた。

(……ちょっと待てよ…)

今でこそこうしてシャワーを浴びているものの、そもそもここに来るまでがほぼ無意識でほんの短い合間の記憶がすっぽりと抜けている…ような気がするのだ。
帰宅して、玄関でふらついていた所までは意識にあるものの、修兵の小言を浴びている辺りからがあやふやでどうにも飛んでしまっている。

(そうだ…そっから水飲んで…)

そこまで断片的に思い出した拳西は、浴槽の蓋の上にぽつんと置かれているものを視界に入れて目を見開いた。
さっき冷蔵庫に戻した筈のボトルがどうして此処にあるのか、意識の中では修兵を風呂場に持ち込んでいた筈なのだ。

「やべぇ!!!」

ザアッと血の気が引くのと同時に頭から一気に酔いを醒ました拳西は、身体もろくに拭かず辛うじて腰へタオルを巻いた状態で浴室から飛び出した。









ヴゥゥゥーンというモーター音に連動した微かな振動に揺られながら、修兵はミネラルウォーターのボトルとビールの缶に挟まれてその身を震わせていた。

(……寒い…!!!!)

まさか冷蔵庫に置き去りにされてしまうなど、拳西を主に持って初めてのことだった。
あの酔っ払いめ…!と、そう強がって憤慨してはみるものの半ば涙目だ。
扉を閉められてしまった庫内は真っ暗で静かで何より寒過ぎる、金属が主の機械である今の修兵は熱を奪われるのも早く、内側も外側も既に氷のように冷え切ってしまっている。
閉じ込められてまず思い浮かんだ打開策は、ここから室内の固定電話に発信して気付いて貰うことだったが、不運なことに現在故障中のそれはまだ買い替えていないのだ。
その上、こんな密閉された狭い所で人型化すればどうなるか考えるだけで恐ろしい。
挙句、素面でない拳西がすぐに見つけて助け出してくれるとも思えないし、PCにメールを打とうにも冷えてしまった機体は既に言うことを聞かず、PCだって起動していなければ気付かれないのだ。
重なる不運に絶望的な気持ちになりながら、とにかく一刻も早く出して貰わなければと、辛うじて起動出来そうなアラームのバイブをどうにか駆使して体を震わせガタガタと物音を立てた。

(どうしよう…一晩このままだったらどうしよう…)

内部結露で故障するのではという危惧に怯えながら、次に修兵が案じるのは拳西で、あの状態でまさか風呂に浸かっていやしないか、そこで寝落ちなどしているんじゃないか、一人で何かあったら危ないと言うのに、そんな心配が頭を回り始める。
焦りと恐怖がぐるぐると駆け巡る中、どんどん動きの鈍くなる機体でチカチカと弱々しく液晶を明滅させながら、暗い庫内から必死で拳西を呼んだ。




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