ガチャンッと、いつにない荒々しさで扉を閉めて革靴を玄関で脱ぎ捨てた拳西は、千鳥足でふらついて靴箱の隅に手を着いた。

「やべ」

「うわぁ!」

拳西が前のめりによろついた拍子に修兵が胸ポケットから飛び出しそうになって、寸での所でキャッチする。
危うく硬いコンクリートタイルの上に落下する所だった修兵は、ギリギリで己を鷲掴んだ主へ抗議の声を上げた。

「び、びっくりした…!ちょっと拳西さん!!」

「悪ぃ悪ぃ」

謝罪こそ軽いものの些かヒヤリとしたのか、拳西は再び胸ポケットへ納めた修兵の無事を確かめるようにぽんぽんと叩いた。

「あぁもう!拳西さん…飲み過ぎですよ…」

「あぁー…問題ねぇ」

酔っ払いこそそう言うものだと、修兵はポケットからじっとりと拳西を見上げてはぁと一つ溜息を零す。
そんな呆れたような修兵の視線を受けて、拳西は唇の端に苦笑いを浮かべながらまあまあと宥めた。

修兵に指摘された通り、それなりに酔いが回っている自覚が無いわけではない。
抱えていた大きな仕事を無事に終えることが出来て、その慰労を兼ねて久々に一杯どうだと言う平子の誘いに乗り、気付けば一杯どころか数軒ハシゴ酒をしてしまったのだ。
達成感と翌日が休みだと言う状況も手伝って気が緩んだのか、確かに常よりも酒量が多かったことは否めない。
しかしそれなりに飲めるクチだと言う自負もあるし、事実強いのだが、それ故に根拠のない自信というものもあるわけで。

「言うほど酔ってねぇよ、大丈夫だ」

「…絶対うそだ」

そう言う修兵も、酒の席では一緒になってそれなりに楽しんだのだ。
平子が用意してくれた個室の居酒屋で、同じく人型化した浦原と情報交換がてらスマホ同士だからこそ分かる相談相手になって貰ったり、片や主同士でうちのスマホ自慢大会が始まっていたり、それに照れに照れまくる修兵を今度は浦原も一緒になっていじり倒したり。
なんだかんだで場が陽気になれば自然と主二人の酒も進むわけで、気付けばいつの間にか結構な量のボトルが空いていて驚いた。
楽しく飲むのは良いことだけれど、節度というのも大切である。
スーツのジャケットも脱がずにどっかりとリビングのソファへ腰を下ろして”あ゛ぁ゛ー”などと親父臭い呻き声を発する拳西の胸元を、修兵はポケットの内側で暴れながらガスガスと叩いた。

「ジャケット皺になりますよ!ちゃんと掛けて水飲んで!今日はもう着替えて寝ちゃってください、あとはやっときますから」

小さなボディをガタガタと震わせながらの嫁発言に拳西はふっと小さく笑いを零して、おざなりに脱いだジャケットから修兵を手に取って立ち上がる。
放られたジャケットに未だ文句を言う修兵のお小言をスルーして時刻を確認すれば、既に日付は変わっていたが、午前様にならなかっただけ良いだろうと勝手に納得して頷いた。
冷蔵庫に常備してあるミネラルウォーターのボトルを取り出して、扉を開けたままそこに凭れながら煽れば、またもや修兵の小言が飛んで来る。

「拳西さん冷蔵庫開けっぱなし!」

「はいはい分かった分かった」

拳西の手の中でぎゃいぎゃい喚く修兵を常より締まりのない顔であしらって、扉を閉めながら飲み掛けのボトルを中へ、

戻そう、としたまではいいものの、

「え、待って待って!!違う違う!!」

驚きで声を荒げる修兵の焦りも空しく、戻される筈だったボトルは己の自覚以上に酔っ払っているであろう主の手に握られたまま、代わりにサイドポケットへ置き去りにされた修兵をそのままにして、冷蔵庫の扉がぱたりと閉められてしまった。


(嘘だろぉぉぉおぉっ!!?)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -