ふにゃりと、頼りない感触が手の甲に触れて、拳西は毛布の中でもぞもぞと寝返りを打ちながら枕元へ手を伸ばした。
目を覚ましてしまったものの、恐らく起床時間までは程遠い時刻なのだろう、薄目を開けて確認した部屋はまだ薄暗い。
いつも枕元に待機している、もとい寝ている修兵で時刻を確認しようとシーツの上で彷徨わせた手が、ぺたりと何か柔らかいものを捕えて意識がパチリと覚醒する。

「あ…?」

薄暗がりの中慣れて来た目で手元を確認すれば、寝惚けてぺたぺたと触れていたのは修兵の滑らかな頬で。
いつの間に人型化したのか、拳西の横で一緒に毛布へ包まりながら半開きの口で締まりのない寝顔を披露していた。
しかも、見ればどういう訳か衣服を身に着けてはいないようで、滑らかな肩のラインから背中までもが露出している。

「…やべぇ、忘れてた」

そうなのだ、今日は入浴しながらワンセグを使おうと渋る修兵を風呂場へ持ち込んで、そのままうっかりカバーを着け直してやらずに寝室へ持ち込んでしまった。
修兵にとってはいつもの紫色のソフトカバーが衣服の代わりなのだが、うっかり外したまま着け忘れると人型化した時に裸になってしまうらしく、以前修兵からお咎めを受けたものだ。
それ以来、外であらぬことになっても困るのである種色んな意味で気を付けてはいたのだが、今日は修兵も何も言わないものだからうっかり忘れてしまった。
それにしても、こう何の前触れもなくスリープモード中に人型化してしまうと言うことは何処か調子でも悪いのだろうか。
もしかしたらもうそろそろメンテナンスに出さなければならない時期だったか、買い替える気など毛頭ない拳西にとって修兵の定期メンテナンスは必須なのだ。
毎回毎回、何度経験しようと窓口へ出す前に見せる修兵の寂しそうな縋るような表情と、メンテナンスを終えて帰って来た時のドヤ顔と構って攻撃は可愛らしくてその都度笑ってしまう。
とりあえず、起きたら機体のチェックでもするかと、拳西はおもむろに修兵の肩へ掛かる毛布をぺらりと捲ってみた。
惜し気もなく晒された修兵の白い素肌と綺麗な身体のラインを、拳西は片肘を付きながらどこか満足そうに眺める。
スマホの本体は黒いボディのくせに、なんというか、人型になるとこうもそそるものがあるとはなんだか不思議なものだ。

「ん…ぅ…」

上掛けを捲られて一瞬入り込んだ冷気に眉を寄せたが、修兵は再び丸まるようにして眠り込んでしまった。

「ガキみてぇだな」

久し振りに見る修兵の安心しきった寝顔にふっと笑って、拳西は頬に掛かる髪を除けてやりながらさらさらと滑らかな肌へ掌を滑らせてその感触を楽しんだ。
人型化した修兵の肌は不思議と体温も感じるし白く滑らかで、なんだかいつまでも触っていたいようなしっくりと馴染むそんな手触りだ。
拳西を抱え込むようにして絡ませてくる脚を悪戯にスルリと撫でてみれば、腿の付け根からふっくらとした双丘の丸みに差し掛かる辺りでくすぐったそうに身を捩る。
まるで”ダメ”と窘めるように拳西へ脚を絡める力を強くして捩られる綺麗な腰骨のラインが妙に扇情的で、拳西はうっかりあらぬ欲が湧き上がりそうになるのをぱっと手を離して誤魔化した。

(……スマホの寝込み襲うとかどうだよ…)

そうは思いつつもなんだか離し難いのも本音で、今度は耳元をくすぐるようにして撫でてみる。
形の良い耳の輪郭をなぞりながら微かに首を竦める修兵の反応を楽しんで、耳朶をふにふにと抓んでみたり、いつものすっぽりと手に納まるつるりとした硬質な手触りとは全く異なる体温と人肌の感触を楽しんだ。
一頻り悪戯をするように髪を梳いたり頬を撫でたりしていた時、

カシャリ

聞き慣れた機械音がして拳西は思わず手を止める。
人型化しているにも関わらず、確かに今拳西の耳に届いたのはカメラ機能のシャッター音ではなかったか。
それも修兵の身体の中から聞こえたような気がしたのだ、なんとも初めての現象でこれはいよいよメンテナンスかと修兵の胸元へ耳を当ててみたり転がして背中を覗き込んでみたりして原因を探る。
すると再度、カシャリ、先と同じ音が響いて、拳西は修兵の体勢を戻そうとしていた己の手元へ視線を移した。
修兵の後頭部を抱え込んでいた己の親指が、耳朶の柔らかな皮膚へぐっと食い込んでいる。
拳西は試しにその修兵のふにふにとした耳たぶを親指と人差し指で押すように摘まんでみた。

カシャリ

やはり軽快に鳴るシャッター音に拳西は今度こそ何の音かと合点がいく、スクリーンショットだ、音も触れている場所から推察しても間違いない。
人型で、ましてや睡眠中でもこんな機能が有効だとは知らなかったが、故障やエラーなどではないことが分かってひとまず安心する。
しかし、スクリーンショットということは、人型化の状態でシャッターを押した場合どんな画像が撮影されているのかが気になるところだ。
今現在ほぼ裸の状態の修兵が保存されているのだろうか、だとしたら目が覚めた時にぎゃあぎゃあ騒ぎそうなものである。
生憎この状態で修兵の液晶を確認することか出来ないのでスマホに戻って貰うしかなのだが、やはりそこは勿体なさから働く悪戯心があるわけで。
拳西は未だすよすよと眠る修兵を眺めながら暫し考えた挙句、襟足に掛かる髪をさらりと払うと、晒された白い首筋へゆっくりと唇を寄せた。
静かに脈を打つ薄く柔らかな皮膚を食むように口付けて吸い付き、ちゅっと音を立てながら離れれば鮮やかな鬱血痕が浮かび上がる。
ぽつりと小さく花が咲いたように浮かぶ色っぽい痕に満足して、拳西は再度耳朶を抓んでカシャリとスクリーンショットを起動させた。
見付けたら怒って消されてしまいそうだが、その前にタブレットにでも転送してしまえばいいだろう。
拳西は一応保険で申し訳程度に置いてある枕元の目覚まし時計を、修兵のアラームよりも少し早めにセットした。
修兵を弄ってなんとなく満足したお陰か、忘れていた眠気が再び戻って来る。
拳西は剥いでいた毛布を掛け直してやると、己にしがみついている修兵の脚を解いて今度はこちらが抱き込んでやりながら二度寝を決め込んだ。









「え!!!なにこれ!?」

翌朝、一通り準備も終えてリビングでゆったりとコーヒーを飲んでいる拳西の横で、修兵がガタガタとボディを震わせながら声を上げた。

(気付くの遅ぇなー…)

そう思いながら騒いでいる液晶を見下ろせば、夜中に知らず撮影されていた修兵の寝姿がシュシュシュッと続けてスライドされている。
どうやらようやく己の中の画像フォルダが更新されていることに気付いたらしい修兵が、身に覚えのない、しかもほぼ半裸どころではないあられもない人型状態の写真を見付けて面食らっているようだ。
しかも、そのどれもが上半身裸の拳西との添い寝写真なのだからいかがわしいことこの上ない、こんなにがっちりはしたなく脚を絡めていたなんて恥ずかしくていっそ埋まってしまいたい。
特にその中の一枚、首筋にくっきりと浮かぶ赤い痕を着けて幸せそうに眠る己の姿は一番頂けない、いつの間にこんな悪戯をされていたのか、なんとも油断できない主だ。

「お前、人型でもスクショとか出来んのな、凄ぇな」

「あ、そうなんですよ凄いでしょ…ってそうじゃなくて!!何してんの拳西さん!?」

隠れた機能を呑気に褒めてくる持ち主にうっかり流されそうになるが、今重要なことはそれではないのだ。
どうして寝る前にカバー着けてくれなかったんですかだの、寝込み襲うなだの、こんな写真削除削除だの予想通り朝からぎゃあぎゃあと騒がしい。
はいはいとあしらわれつつもめげずにきゃんきゃんと機械熱を上げながら騒ぐ修兵は、実は既にタブレットへ画像が転送さてれいることも、今度から寝る時わざとカバー外しとくかなどと不埒なことを主が考えていることを知る由もなく。

「あーあー分かった分かった好きにしろ、いいからもう仕事行くぞ」

「うぅっ…ほんとに消しますからね、それと今度から寝る時スクショロックしてやる…!」

とは言いつつも、敬愛する拳西との貴重な添い寝ショットを消し去ってしまうのを実は物凄く勿体ないと思っているとは口が裂けても言えない。
そんなことを言ったらまた調子に乗るに決まっているのだ、この主は。
それともう一つ、実は修兵も拳西に隠して告げていないパスワードロック付きの秘蔵フォルダがあるのだ、この存在だって例えメンテに出されようがくすぐりの刑を受けようが絶対に言えない。
入浴中の拳西とか、ソファで修兵を握り締めながらうたた寝している拳西とか、スーツを脱いでいる最中の拳西とか、胸ポケットからいつも見上げている男らしい喉仏から口元までのアップとか、そんなもの満載の画像の数々は何があっても見せられない。
それを考えたら、今回のコレだってお相子なのかもしれないけれど。
隠し撮りされた幾つもの画像をスライドしながら散々迷った挙句、修兵は削除するふりをして秘蔵のフォルダへ一枚残らずこっそりと移し替えた。
我ながら間抜けとしか言えない己の寝顔を見下ろしながら、今までにない程穏やかで優しげな表情を浮かべている拳西なんて見てしまったら消せるものも消せないというものだ。

(ずるいよなぁ…)

修兵は拳西のスーツのポケットへ滑り込みながら胸の内だけでそう小さく呟いて、最後の一枚まできっちり移し替えたフォルダへしっかりと内緒のパスワードを掛け直した。



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