タンタンッと拳西が小気味良くキーボードを叩く横で、修兵はぼんやりとパソコンの大きな液晶を見上げながら退屈そうに待受け画面を変えてみたりガジェットを弄ってみたりして暇を持て余していた。
自宅へ持ち帰って来た仕事に没頭する拳西の隣で修兵が出来る事と言えば、メールや電話の着信を待機するだけの簡単なお仕事だ。
パソコンが手元にある時には調べ物をする役割はそちらに取られてしまうし、同じ電子機器の筈なのに大きくてスペックの高いそいつに修兵がたまに嫉妬している事を拳西は知らない。
始めの方こそ眼鏡を掛けて真剣な表情で仕事を熟す拳西をうっとりと見上げてみたり実は隠し撮りをしてみたり、保存されていた画像の整理を意味もなくしてみたりして暇を潰していたがそれも飽きてしまった。
もうそろそろやる事もないし、まだ暫くは拳西も構ってくれそうにない。
修兵は己のお腹に表示される時刻を確認してはぁと小さく溜息を吐くと、省電力モードに切り替えてうとうととし始めた。
途端、ブルブルと震え出すボディに奇声を上げて慌てて省エネモードを解除する。

「ぎゃっ、ちょ、け、拳西さ…!メール!!メール早く…ッ!」

未だにマナーモードのバイブが苦手な修兵は早く見ろと訴えるも、あーだのおーだの生返事ばかりで全く手を休めようとしない。
結局30秒間フルで受信の鳴動時間を耐えた頃には息も絶え絶えだ。
いつもこの鳴動時間を"5秒でいいじゃん""気付かねぇからダメだ"の攻防になるのだが、バイブに耐えてもじもじしている修兵を眺めるのが楽しくてわざと拳西に長く設定されているのを修兵は知らない。

「はぁ…はぁ…もうやだこれ…。拳西さん、メール2通着信ですよ」

「今手が離せねぇ、読み上げてくれ」

そう頼めば、やっと仕事を得たと言うように修兵は嬉々として返事をする。
メールの受信フォルダを開きながら、送られた順に下から読み上げていく事にした。

「『件名:お疲れさん  明日の会議10時から11時に変更になったわ、出勤遅めでええでぇー』平子さんからです」

「おう、アラームとスケジュール変更頼む。返信は『了解、助かる』でいい」

「はい。次読みますね…あれ、これ誰だろ…?」

電話帳に登録のないメールアドレスに疑問符を示しながらも、こういう送り主不明のメールは仕事関係のもので時折送られてくるのでこれもそうだろうかととりあえず開く。
何故か珍しく添付があることに首を傾げつつ、そのまま読み上げることにした。

「『件名:突然のメール失礼します 最近、寂しくないですか?毎晩毎晩一人でするのも物足りなくなってしまいました、あなたの熱くておっきいアレを…お、奥までぶち込ん…って、うぇ!?え…っと…エ、エッチ、し、しません』」

「ぶっふぉ!!!」

明らかに挙動不審な修兵が読み終わる前に思い切り噴き出した拳西は、飲み込みかけていたコーヒーをなんとか嚥下して盛大に噎せた。

「オイ!アダルト系のスパムじゃねぇか削除だ削除!!」

「え、え、だって…!!」

何やらとんでもない文面を読まされていることに気付いた修兵は、あわあわとボディを発熱させながら慌ててメールを閉じようとして再び奇声を上げる。

「わっ、なんだこれダメダメ!!拳西さん見ちゃダメ!!」

「ぶっ!」

削除どころか操作ミスでうっかり添付を開いてしまって、液晶いっぱいにあらぬ画像が映し出されて再び拳西が噴き出した。
カタカタとボディを震わせながら修兵はどうにか画面を強制的にブラックアウトさせると、無駄に消耗したバッテリーにぜぇはぁと荒い息を吐く。

「はぁ…びっくりした…さ、削除しますね…」

そう言う修兵に、拳西は少し考えてから悪戯そうに唇の端を上げると、ちょっと待てと制止の声を掛けた。

「なぁ修兵、せっかくだからちゃんと最後まで読んでからにしろよ」

「んな!?む、ムリムリムリ…!!!」

拳西の意地の悪い提案に修兵が声を上げて固まる。
最初の一行でさえあれなのだ、文を追うごとに益々卑猥になっていくメールを朗読させられるなどどんな拷問だと恨みがましく見上げるも、当の拳西はニヤニヤとしたまま修兵の謂わば"羞恥プレイ"待機中だ。

「…拳西さんがただのエロ親父だ…変態エロ親父、スケベ親父」

「……いい度胸だ」

据わった目でひょいと摘み上げられた修兵が、無限くすぐりの刑高速バージョンにさらされてヒートアップしたせいで人型から暫し戻れなくなったのは拳西曰く当然の制裁だそうで。
因みにこの後人型化した修兵がよからぬイタズラのお陰でとんでもない二次被害を受けたのはまた別の話。




― END ―



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