*long”37595”の設定の拳修です










  九番隊三席と四席の場合













参った。


そう溜息を吐いて、拳西はぼりぼりと首の裏を掻きながら気怠げな足取りで九番隊舎へ続く廊下をのっそりと歩いていた。

午後の職務終了まであと半刻という時分に差し掛かった所で、話がある、端的にそう伝えられた一番隊からの呼び出しで仕事の話かと一人出向いてみれば、仕事は仕事であったのだがそれはほんの幾つもなく、蓋を開けて見ればあとは殆ど年長者の世間話と酒の付き合いときた。
寧ろこちらが主体だったのではないかと思う程周到に用意されていた酒席で、拳西は事細かに近況報告をさせられて根掘り葉掘り質問攻めに遭ってしまった。
拳西達がこちらへ戻り幾らか日も経って、やはりそれなりに気を砕いていてくれたのだろうが、拳西にしてみればあれは単なる孫を持つ祖父と大した相違は無い。
幼い頃から修兵を見て来ている分仕方のない事ではあるのだろうが、総隊長とその右腕ともあろう人物が実はまだ孫離れが出来ていないのではと言う一面が垣間見られてなんだか複雑だ。
そうは思いつつ、拳西も拳西で己の大切な者が大事にされている環境はありがたいもので、なんだかんだと随分遅くまで付き合ってしまったのだが。
なんとなくそんな予感がして、こうして遅くなる事を見越して自分が最後に戻るから修兵を含めて定時には上がってくれていいと言って出て来て良かった。

程良く酒で浮ついた頭でぼんやりとそんな事を考えながら歩いていれば、執務室の中にまだ気配が残っていて拳西ははてと眉根を寄せた。
僅かながら修兵の気配も未だ残っている。
拳西はこれといった意味もなく霊圧を抑えて廊下を進んだ。
扉の前に立てば、中からは何やら妙に陽気な緩んだ空気と微かな話し声が伝わって来る。

なんとなしに耳をそばだてれば、副隊長がだの隊長がだの、どうやら自分達の噂話をしているようだ。
それにしても修兵の声が聞こえない事を妙に思いながら、拳西は勢い良くその扉を開けた。

「おう、何してんだ」

「「っ!!?た、隊長…!!」」

扉を開けた先、執務室の応接用の卓を囲んで、三席と四席が酒盛りをしている真っ最中だった。

「なんだなんだおめぇら、人の噂しながら職場で酒盛りたぁいい度胸だな」

そう言って凄んでみせれば二人はあわあわと慌ててシャキンッと背筋を正し出す。

「も、ももも申し訳ありません…!!!」

「終業時間も過ぎましたので、つい…!」

顔を青くして固まる部下二人に、はて己の悪人面(平子達曰く)はそこまでかと少々不本意に思うものの、拳西はすぐにふっと相好を和らげてひらひらと片手を振った。

「冗談だ。任せて先に上がっちまって悪かったな、続けてていいぞ」

「いえ、でも…」

「気にするな。…そう言や修兵は居ねぇのか?」

てっきり修兵もこの輪に混ざっているのかと思っていたが、肝心のその姿が見当たらない。
入口に立ったまま首を傾げる拳西に、三席がちょっと困ったようにそれでもどこか楽しそうに笑いながら、自分達が座っているソファの向かい側へ掌を差し出して示す。

「副隊長、お休み中です…」

その言葉に二人の元へ歩み寄って示された方を見下ろせば、長身をぴったりとソファに収めてスヤスヤと寝息を立てる修兵の姿があった。

「なんだ、寝ちまってんのか」

「はい、ずっとここに目いっぱい書類を広げてお仕事されてたんですけど、気付いたら…」

寝落ちしてたみたいですと、少し赤らんだ顔で四席がははっと苦笑を漏らす。
それでも、見ればテーブルの隅にはきっちりと角を揃えられた書類が積まれていて、それがいかにも修兵らしくて笑ってしまう。
どうやら仕事を終えて自分を待ってくれている内に寝てしまったらしい、そう自惚れても間違いではないだろう。
副隊長をこのまま置いて帰ってしまうのはなんだか忍びなくてと言う二人に、拳西は困ったように薄く笑った。

「悪ぃな」

「いえそんな、勝手に残っていたのは自分達ですから。それに副隊長の…」

そう何かを言い掛けた四席の脇腹を三席がツンッと突いて止めるが、中途半端な所で言い淀まれては逆に気になって仕方が無い。

「何だ、最後まで言え」

「いやあの…!えっと…副隊長の寝顔を拝見出来るのが貴重で…その…!」

「…つい離れ難くて…それで、飲みに出る位ならば折角ならここでと…」

それで修兵の寝顔を肴に酒盛りとは、"…イイ趣味してやがるな、コノヤロウ"そう胸の内で呟きながら思わずちょっとした危機感を覚えてしまったのは言えない話だ。
修兵を上司として純粋に敬愛しつつ時折親のような目線で自隊の副隊長を慈しんでいる隊士達にそんな気はさらさらない事はとっくに拳西も知っているから、いわばこれは本能的な防衛心と言う事にしておこう。
何も知らずに緩んだ寝顔を晒している修兵を見下ろしながら一人でうんうんと納得していれば、「あの…」と言う三席の声が控えめに届いた。

「宜しければ、隊長も一杯いかがですか?」

「…いいのか?」

「はい、是非」

「隊長とご一緒出来るなんて、余りありませんから」

「じゃあ、邪魔するぞ」

思えばさっきまで己も散々飲んで来たクチだが、隊士からの珍しい誘いにありがたく乗ることにした。
どこぞの誰かが起きていれば飲み過ぎですと窘められそうなものだが、幸いにもその誰かさんは全く目を覚ます気配がない。
拳西は二人が掛ける向かい、横になる修兵の頭側にあるスペースに腰を下ろす。
座るついでについいつもの癖でくしゃりと修兵の髪を掻き混ぜて手の甲で頬を撫でれば、それを見ていた二人の目が見開かれて頬が染まり、拳西ははっとしてさり気なく手を離すと一つ不器用な咳払いをした。
酔ってはいないと思っていたが、それなりに酒のせいで気の緩みが出てしまったらしい。

拳西は作ったような仏頂面で差し出された猪口を受け取って、どことなく笑い出すのを堪えているかのような三席の酌をむっすりと受けた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -