あれからなんだかんだでもう一悶着隣人の痴話喧嘩もありつつ子猫と家出少年を引き取らせて、三人は妙にぐったりした疲労感に襲われてリビングでほっと息を吐いた。
こっちでも猫用のトイレとかエサトレーとか買いに行かないととやけに張り切っている修兵の頭を、拳西と阿近が嗜めるようにコツンと小突く。

「おい、こっちも心配したんだからな」

「なんかあったら連絡寄越せ」

「あ、はは、ごめんなさいつい…」

「「ついじゃねぇっつの」」

そう言われて困った様に苦笑いを零しつつ、修兵もはっと思い返して二人をじとっとねめつけた。

「二人とも、俺が浮気してるって誤解したくせに…」

「…悪かったよ」

「しょうがねぇだろうが」

日頃ほとんどない来訪者に、見慣れないスニーカー、部屋の奥から聞こえる甘い声、音信不通。
これだけ揃えば咄嗟に疑いたくもなるもんだと言われて、修兵は再び言葉を詰まらせて気まずそうに視線を逸らす。
今回の件、そもそもの原因は隣人の喧嘩とは言えど思わず子猫に夢中になってしまったが故に二人へなんの連絡も寄越さなかった浅慮な己も悪かったと重々反省しているのだ。
そう言って修兵が素直に謝れば、二人は先程小突いた頭をわしわしと撫で回す。

「それにしても…」

何処か含みを持たせた笑みを唇の端に浮かべた拳西が、修兵の手をぐっと引いて腕の中に閉じ込めた。
後ろから抱きかかえられる形で捕まった修兵がなんだと振り返れば、悪戯を思いついたような表情の拳西に見下ろされる。

「あのガキんちょと随分仲良くなったじゃねぇか」

―膝枕の挙句にゃあにゃあ鳴いてたな。

そう言われて"え"と固まる修兵に、今度は阿近が上から圧し掛かるようにしてその身動きを封じて来た。

「まさか、あいつに聞かせて俺らに聞かせねぇなんてこたぁないよなぁ?」

前後で挟み撃ちにされて修兵はサァッと顔から血の気を引かせると、いやだのそれはだのともごもご口籠りながらどうにか逃れようと腕の中で身を捩る。

「だってほら、今もう猫いないし…!」

「お前も猫みたいなもんだろ」

「えぇ!?あれはあの場の流れって言うか思わずっていうか…!」

「ほう、お前は思わずで他の男と膝枕だのなんだのすんのか」

「ちょ、誤解…!やっぱまだ誤解してんじゃん!!」

なんとも理不尽な流れにじたばたと手足を動かそうにも、大の男二人がかりでがっちりと抑え込まれてしまって悲しいかな精一杯の抵抗も全くの無意味だ。
自分を挟んだアイコンタクトに気付いて不穏な空気を察した修兵が反論の声を上げる前に、ぐんっとその身を持ち上げられて視界が引っくり返った。
拳西の肩に担ぎ上げられる形にされた体勢に色気のない悲鳴を上げれば、担がれたその小振りな尻を阿近がぺしんっと掌ではたく。

「ひっ!」

「よし、拳西」

「おう」

そう阿近が促して拳西ともども足を向けたのはバスルームで、修兵はその先を察して肩の上でぎゃあぎゃあと騒ぎ出した。

「やだって!なにすんの!?降ろしてって!拳西さん!?」

「心配すんな」

「ちっと身を持って誤解を解いて貰うだけだからよ」

いかにもチンピラ然とした物言いをする阿近の悪い顔を見下ろして、修兵は往生際悪くバシバシと拳西の背中を叩き始める。

(やっぱり二人共まだちょっと怒ってるじゃん…!!)

そう嘆く修兵がぽいっと投げ込まれたバスルームで、その晩延々と艶めかしい猫なで声が響いていたのは言うまでもない。


― END ―


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