「オイ…それ完全に俺巻き込まれてんじゃねぇか面倒臭ぇ」

しばらくブスッとして修兵と一護の話を聞いていた阿近が、これまた怠そうな声で不満を漏らした。
フローリングへ直に腰を下ろしてローテーブルに肘をつきながら一向に猫と視線を合わせない阿近に、修兵もえぇーと不満の声を漏らす。
どうしてここまで阿近が機嫌を損ねているのかと言えば、修兵を引っぺがして抱え込んだ時にその腕の中に居た小さい生き物に気付かず、思い切り両腕で潰してしまって手の甲をガリリと引っかかれてしまって今に至るのだが。
せっかく先程一護に提案したお願いをしなければいけなかった所になんとも第一印象と間の悪かった事かと嘆いたものの、修兵は諦めずこうして交渉を続けている。

「拳西さん…」

修兵との音信不通の原因も知れて(本人曰く猫に夢中でスマホを寝室に置いたままで気付かなかっただけ)浮気疑惑も晴れて、阿近とは正反対にすっきりした顔でソファに腰かけてコーヒーを啜る拳西に、修兵は助け船を請うように声をかけた。
両の眉尻を下げた修兵と一護に見上げられて、拳西はマグカップ片手に肩を竦めてみせる。

「俺は別に反対はしねぇぞ」

「オイ、お前は家空けちまうからいいだろうけどな、このちっせぇの世話すんの主に俺だからな!?」

そう言って尚も了承しない阿近に、一護も肩を落として完全にしょぼくれながらチラリと修兵を見遣った。
その表情に修兵はふっと一つ溜息を漏らして、次いで阿近に分からないように一護へ小さくウィンクを寄越すと猫を腕に抱えたまますすすっと擦り寄って行く。

「ねぇ阿近さん、預かるの出来るだけ俺も家に居る時にして貰うし、お世話してくれたらその日は阿近さんの好きなもの作るから、…だめ?」

そう言って阿近の袖の辺りをきゅっと握ってシュンとしている子猫へ頬ずりをしながら縋るように覗き込めば、ぐっと息を飲む音が聞こえてゴンッとテーブルの角へ額を打ち付けた。

「……クソッ、しょうがねぇな…!」

引っ掻かれた手の甲と同様赤くなった額を擦りながら渋々と言った風に頷けば、くるりと振り返った修兵が一護と拳西へOKサインを出して見せた。

(((……ちょろ過ぎる)))

そんな三人の失礼な胸中も知らず、猫と睨み合いながら無言の攻防戦を続けている阿近に呆れた溜息を吐いた拳西がふと一護へ声をかけた。

「お前、ここに居座ったままで彼氏はどうすんだ?」

「彼…!?いや、あの…」

「大丈夫だと思う、一応お知らせして来たし」

拳西のあからさまな物言いに顔を赤くしてどもる一護に助け舟を出しつつ、修兵はなんの問題もないと言う風に言ってのけた。
そうは言っても家を出て音信不通のままそれなりの時間が経過しているわけで、あちらもつい先程の自分達と同様それなりに心配をしているはずで。
探しに出て入れ違いで片や締め出しと言うなんとも運の無い隣人カップルに、どうしたものかと首を捻る。
この時間では管理人室に人手があるかは微妙な所だったが、念の為鍵を開けて貰えるか連絡してみたらどうかと拳西が立ち上がった所で、けたたましくチャイムが鳴らされたと同時に派手なノック音がドンドンと部屋中に響いた。

「なんだようるせぇな」

そう言って眉をしかめる拳西と阿近に、修兵はもしやと思い"あ!"と声を上げる。
その表情で来訪者が誰かを察した拳西が玄関へ足を向けて、覗き穴から確認した顔にやっぱりかと頷いてドアを開けた。
途端、ぬっと扉から屈むようにして姿を見せた長身を見て一歩引く、

(デケェなおい…)

「うちの奴ここに邪魔してないか!?」

190近いかそれ以上はあるであろう長身の銀髪が息を切らせて、拳西の目の前へずいっと一枚の紙切れを差し出して来た。


『 お宅のにゃんこ×2は預かった ← 』


太いマジックでそう書かれた片隅に下手くそな猫のイラストがちょこんと描かれている。
なるほど修兵が言っていたお知らせとはこの事かと、なんともお粗末な貼り紙の完成度に拳西は額を押さえて今日何度目か分からぬ溜息を吐いた。

(小学生か…!)

日頃店の仕事でメニューやポップを作成する作業をしたりしている癖に、どうしてたまにこういう不器用を発揮するものかと頭を抱えたくなる。
そこも可愛い所だと言えばそうなのだが今はそんな事よりも家出少年を引き取って貰う事が先決だ。
拳西は一護と子猫の在宅を伝え部屋へ上がるように促すと、男は一言悪いと告げてずかずかとリビングを目指した。

「一護!!」

バーンッと扉を開いて名前を呼べば、ソファの隅で固まっていた一護の肩がビクリと跳ねる。

「黒刀…!?」

「おっまえ…!財布も鍵も携帯も置いて飛び出しやがって!!どんだけ心配したと思ってんだ!!」

ずかずかと一護の元へ歩み寄りぐっと肩を掴めば、その力強さに一護の顔が歪む。
突然姿を現した現役モデルを見て"あ、本物だ"とぼんやり思っていた修兵がその剣幕にはっとして慌てて制止に入った。

「ちょ、待って待って!」

一護の腕の中へ子猫を戻してやりながら、片手で黒刀をどうどうと制す。
迷惑をかけたであろう第三者が仲裁に入った事で冷静さを取り戻したのか、黒刀はゆっくりと一護の肩を掴んでいた手を解いて大きな体をドカッとフローリングに下ろし頭を下げた。

「迷惑かけてすんませんでした」

その勢いに修兵達が呆気に取られていれば、黒刀は再び一護の腕を取り帰るぞ言ってと立ち上がる様に促す。

「無理があるのはお前も分かってる事だろ、お前の我儘で他人様に迷惑かけてんじゃねぇ、一方的に怒鳴っちまった俺も悪かったけど、お前ももう少し大人になれ」

黒刀から苦しげにそう言われて悲しそうに口元を歪ませる一護を見て、修兵も眉を下げながら"その話なら…"とつい先程四人で話し合ってまとまった末の結果を黒刀へ伝えた。
それを聞いた黒刀の目が見開かれて、暫くした後はぁっと溜息を漏らしながらガシガシと後頭部の髪を掻き混ぜた。

「なんつーか…申し訳ない…」

今回の詫びと預かって貰った時の礼は必ずと言って頭を下げる黒刀と一護に、修兵は首を横に振り自分もその子猫を気に入ってしまったから気にするなと宥める。
阿近が修兵に絆されてくれたお陰で存外あっさりと片付いてしまった家出騒動に、完全に力の抜けてしまった黒刀はゆっくりと床に座り込んで一護と子猫の頭をぐりぐりと撫で回した。

「ったく、無駄に心配かけやがって」

「うん、ごめん」

そう言って未だシュンと項垂れている一護へ黒刀がチュッと一つキスを落とせば、途端部屋中の空気がぽわんとしたピンク色に包まれる。
世の言うイケメンモデル様となかなか見目の良い少年二人のキスシーンを目の当たりにして、修兵は感心したようにほうっと息を漏らし拳西と阿近はひくりと頬を引き攣らせた。
人の家に上がり込んでいる上に周囲にギャラリーが居るのを分かっているのかいないのか、目の前のバカップルは子猫を挟んでぎゅうぎゅうと抱き着きながら仲直りの真っ最中だ。

「名前どうする」

「明日決めればいいじゃねぇか」

「うん、風呂にも入れてやんなきゃ」

「お、一緒に入ってやろうか?ん?」

「馬っ鹿、俺一人で出来るっつーの」

「なんかあったら困るだろうが」

「う…じゃぁ…そうする…」

「おーよしよし」




「「「…早よ帰れこのバカップルども」」」





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