(………遅ぇな…)


出がけに阿近が淹れて行った紅茶を啜りながら、拳西は起き抜けから頬の辺りを引き攣らせるようなじりじりとしたものを持て余していた。
カップの中身もすっかり冷めてしまって、テーブルの端に立て掛けているバグベアも待ちくたびれたように大き過ぎる口を開けて何度も欠伸を繰り返している。
こんな事ならば寝起きだからと言って横着をせず、自分が探しに行けば良かったと今更ながら溜息を吐いた。

目が覚めたその隣に修兵の姿が無かった時点で、嫌な予感はしていたのだ。

今夜は修兵の何をそんなに惹き付けるものがあったのかは知らないが、好奇心が旺盛過ぎて鉄砲玉のようにどこそこへ飛んで行ってしまうのは困りものだ。
双子の癖にどしてああもあの二匹の性質は正反対なのかと頭を抱えたくなることも少なくないが、そんな所も可愛いものだと甘やかしてしまうのも事実。
それをしょっちゅう阿近に窘められるのだが、こちらにも性分というものがあるのだから致し方ない。

悶々としたまま二匹の帰りを待ちつつそんな事を取り留めも無く考えていた拳西の耳へ、何やら遠く騒がしい雑音が届く。
はてと見れば傍らのバグベアもしきりに鼻をヒクヒクと震わせて、落ち着きなく窓の方へ鋭い視線を投げていた。
少しずつその喧騒が近付いて来るにつれて、聞き覚えのあるゴースト達の囁き声やら悲鳴やらが混ざり合って酷く耳障りだ。

(うるせぇな…、ハロウィンはとっくに終わったぞ)

コトリと、飲み掛けのカップをテーブルへ置いてステッキを手に立ち上がり、重く垂れているカーテンと窓を勢い良く開け放つ。
途端匂いが強くなったのか、拳西より先に身を乗り出してガウガウと吠えるバグベアの頭を鷲掴んでなだめながら見下ろした先、眼下の光景を見て拳西の目がぎょっと見開いた。
何故か二匹ごっちゃになってフラフラと不安定な低空飛行をしている修兵と阿近に続き、ゴースト達が列を成してその後を追い掛けている。
どういう訳か修兵が阿近の足に纏わりついてぶら下がっているせいで満足な高度が保てないらしい。
どこで何をやらかして来たのか、後から後からフワフワと追随してくるゴースト達の手を払いながらぎゃあぎゃあと喧嘩をしているようだ。

(なんだ、ありゃあ…)

―面倒なモン連れて来やがって。

必死で塔の入口を目指して飛んでくる修兵と阿近を取り巻く状況を見下ろして、拳西はガシガシと短髪を掻き混ぜながら盛大な溜息を吐く。

「しょうがねぇな……おい、オヤツにしちゃあ、ちと多いか?」

そう言ってバグベアの鼻先を抓んでやれば、ブンブンと短い首を振りながら物欲しそうな目をギラリと光らせた。





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