ふわふわとした感触を頬で楽しんでは鼻先を埋める。
それを繰り返しながら、修兵は存外柔らかいと知っている銀糸の肌触りを楽しんでいた。
短く刈り込んでいるせいで一見硬質そうに見える拳西の髪は、見てくれほど癖も無く程良いコシに絶妙な柔らかさを保っている。
すり、と摺り寄せて鼻先や唇で細い毛先を啄んだ。

(あーふわふわだ、気持ちいい…良い匂いだし…拳西さんおとなしいし…)

襟足付近に鼻先を埋められるむず痒さに、暫く無言で好きにさせていた拳西がチラリと振り返る。

「おい、俺まだ風呂入ってねぇぞ」

「んー…気にしません、拳西さんの匂い落ち着く…」

「……そうかよ」

"修兵に愛でられる"と言うどうにも慣れないこの状況に、拳西はじりじりと込み上げそうになる衝動を耐えていた。
まさかこれが修兵の決めたワガママだと言うのか、ならばいつまでこの生殺しの様な状態が続くのか先が見えず、元より細く短い拳西の忍耐の緒が擦り切れてしまいそうだ。
襟足から手を差し入れられてわしゃわしゃと後頭部を弄られながら、再び鼻先を埋められて悶々とする。
修兵に甘えられてじゃれつかれているこの状況も捨て難いが、本当ならば今すぐにでも振り返って襲って構い返してしまいたい。
そんな葛藤に気付いているのか否か、修兵は良いように拳西の柔らかな髪の手触りを楽しんでいた。
普段、硬派なイメージを与えることの多い拳西だが、存外スキンシップが多く甘やかし上手で、逆を言えばこうして無防備に触れられる事に慣れていないのだ。
だから、今のこの状況はそんな拳西にとってなかなかに酷だった。

「…修兵」

「んー?」

拳西の後頭部へぐりぐりと額を擦り付けるようにしている修兵を呼べば、なんとも気の抜けきった声が返って来る。

「何してんだお前は、そろそろいいだろ」

「うーん…」

「うーんじゃねぇ、いい加減ちゃんと言え」

「……」

左右に揺れる頭を後ろ手を伸ばした拳西にがしっと掴まれてそれを阻まれる。
暫しそのまま固まっていた修兵は己の頭を掴む手を外すと、名残惜しげな様子で緩慢に立ち上がって拳西の目の前へずりずりと移動した。

「あの…拳西さんの誕生日の時、俺が言ったこと覚えてますか?」

己の誕生日と言えばつい二週間前だ。
そう言われてふと蘇る、かつてない程情熱的に祝われてしまった日の、その翌朝。
半ば拗ねたように自棄になって修兵が放った一言は、まだしっかりと拳西の記憶に残っている。

― 俺も拳西さんの体中気持ち悪いくらい痕まみれにしてやる…―

残っているのだけれど、

「さぁ、なんだったか…言ってくれねぇと分かんねぇなぁ」

「っ!!」

意地の悪い笑みを唇の端に浮かべる拳西にぐっと言葉に詰まる。

「〜っだから!俺も、拳西さんにいっぱい触りたくて…」

いつも拳西からのスキンシップに翻弄されて絆されて流されてしまっている事の方が多いのだ、たまには思う存分触れて構い倒してしまいたい。
拳西がワガママを聞いてやると言われてから、修兵の頭の中にはこればかりがぐるぐると渦巻いていた。

「好きなだけ触りゃいい、…触るだけでいいのか?」

「あと…」

「おう」

「…お、れも、拳西さんにいっぱい痕付けてみた…って、え!?うぎゃあっ!!」

修兵がそう言い終わるより先、ぐっと拳西に腕を引かれたと思えば急激に視界がぐんと持ち上がって反転する。
何事かと奇声を上げながら目を瞬かせた時にはあっという間に拳西の肩に担がれてしまっていて、落とされないよう反射的に着物の肩口へしがみ付いた。

「んなっ、なに!?」

「よし、寝室行くぞ修兵」

「ちょ、えぇ!?今!?ま、待って!!」

「うるせぇ舌噛むぞ」

「!!」


(待てるかよ馬鹿野郎が…!)



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