「以上、本日の議会はここまで」

午前の終業と共に隊長副隊長だけを召集した議会も終わり、各々が昼食を摂る為にバラバラと退散して行く。
修兵はそれを見送りながらチラリと壁の時計を見上げて、少し余裕を持って昼に入れそうだと確認した。
皆それぞれ隊舎へ戻ったり食堂に向かったり馴染の定食屋へ足を運んでいく中で、今日はどこで食事をしようかと考える。
例の如く、九番隊夫婦の昼食は修兵お手製の弁当だ。
今日は天気が良いから庭に出るのも良いかもしれないし、隊舎の内庭に面した縁側で食べても良いかもしれない。
そんな事を思いつつゆったりと片付けながら拳西へ声を掛けようとした修兵の背後から、二本の腕がぬっと伸びて肩にずっしりとした重みが圧し掛かる。

「しゅーうへーい、今日の弁当はなんや?サバ味噌か?かりんとう入っとる?出し巻きは甘くないやつがええなぁ」

「げっ」

後ろから修兵の肩に顎を乗せて、ぴったりと並んだ綺麗な前歯を見せてにんまりと笑う平子に、修兵は心底嫌そうな声を出して振り返る。
拳西とどこで食事をしようかを考えるのに夢中で、会議室にまだ平子が残っていた事に気付いていなかった。
平子はこうしてしょっちゅう修兵にちょっかいをかけては時折弁当を集りに来るのだ。
擦れ違いざまにこうやって絡まれる事もあれば、二人で食事をしている目の前を嵐のように走り去るついでにおかずを掠めて行く事もある。
今日も例に無く捕まってしまった己の迂闊さを呪って、修兵はその腕から逃れようと身を捩りながら抵抗した。
すぐ隣で拳西の青筋がバキバキと浮き上がって行く音が聞こえてちょっとした恐怖だ。

「ちょ、サバなんて入ってませんし入っててもあげませんよ!!っていうかなんで弁当にかりんとう!?」

「なんやつれないやっちゃなぁー」

そう言ってぐいぐいと頬を押し付けてこようとする平子の顔を掌で押し退けていれば、

「ぐぼぁっ!!!」

突然潰れた奇声を上げて平子が崩れ落ちる。
ぎょっとして振り返ったのと同時、平子を押し退けていた手を絡め取られて引き寄せられ、片眉を引き攣らせている拳西にがっちりと腰を抱かれてしまった。
足元を見れば、脇腹を押さえて唸っている辺り拳西の手刀が綺麗に決まったらしい。

「俺の目の前で絡むたぁ良い度胸だ。お前は泡でも食っとけ、こいつの弁当はやらん」

「げぇほっ、おま、手加減っちゅーもんを知らんのか!!この修兵馬鹿が!!!」

「それがどうした」

あっさりと認める拳西に今度は平子のこめかみがひくりと震える。
未だ拳西に腰を抱かれながら、なんだかんだといつもの言い合いを続ける二人に挟まれて、このままでは収拾が付かないと判断した修兵が口を開いた。

「あの、拳西さん…お昼行きませんか?」

「あぁ、悪ぃな」

修兵の一言でぴたりと言い合いを止めた拳西に、平子がまた親馬鹿修兵馬鹿と詰る。
拳西はあっさり意識の矛先を変えて、今日の弁当のおかずを修兵に聞きながらすっかり不機嫌を収めてしまった。

「行くか、縁側ならゆっくり出来るだろ」

あそこならば昼は隊士達もほとんど出払ってしまっていているし、二人でゆっくりと食事が出来る。
少し意味深な含みを持たせて提案する拳西に、修兵も微かに頬を染めながら頷く。

「腹減ったな、早く行くぞ」

―それに、今日はさっさと上がっちまわねぇとなぁ。
修兵だけに聞こえる程の声音で囁くようにそう言って、拳西は少し赤くなっている修兵の耳へ一つ口付けを落として軽く食んだ。

「ひっ」

途端、ぞわっと身を震わせた修兵は真っ赤な顔で耳を押さえると、拳西に絡め取られていた指を慌てて解いて腕の中から飛び退いてしまった。

「んなっ、お、俺、先に行ってます…っ!!!」

声にならない叫び声を上げながらバタバタと部屋を出て行ってしまった修兵に、拳西はふはっと可笑しそうに笑って唇の端を吊り上げる。



(さっきの仕返しだ)



「…アホか、このバカップルどもが…!」

「うるせぇ」




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