バタンッと、給湯室の扉を閉めた途端、修兵はハァァッと盛大に溜息を吐き出しながらへなへなとへたり込み両手足を床に着いて項垂れた。
明らかに拳西には不審に思われていたに違いない。
それどころか、修兵が何を考えているのかさえ筒抜けなのではないかとすら思う程に今の自分は挙動不審な自覚がある。
だとしたらどんな顔で戻れば良いのか、それに困ってしまう程自分の頭の中は今煩悩で塗れている。
だが、

「仕事しろ、仕事…」

誰にともなくそう呟いて立ち上がると、湯呑みやら急須やらを取り出しておもむろに準備を始めた。
ゆっくりとお茶でも淹れれば良い気分転換くらいにはなるだろう。
やかんにたっぷり湯を沸かして、いつもより少し上質な茶葉を引っ張り出して来て、湯呑みもしっかり温め、拳西好みの温度で専用の大きな湯呑みにたっぷりと注ぐ。
部屋中に充満する芳ばしい香りを吸い込んでほっと息を吐いた。
ほんわりと体に染みこむ良い香りにざわついていた胸の内も幾らか治まって、少し冷静な思考回路が戻って来る。
未だ僅かに火照る両頬をぐいっと抓った。
何を今更照れることがあるのか、今まで散々甘えるも甘えられるも一通りしてきたじゃないか。
その上今日は己の誕生日なのだから、したいこともして貰いたいことも存分に叶えて貰えば良い。
半ば開き直ったような思考回路にシフトチェンジを試みた修兵は、よしっと一つ気合を入れて湯呑みを乗せた盆を片手に給湯室を出て拳西の元へ足を向けた。

「お待たせしました」

「おう、こっちも丁度終わった所だ」

そう言って肩を鳴らす拳西の前へ湯呑みを置きながら、きっちりと整えられた書類の束を見て礼を述べる。
茶を淹れて戻って来た修兵の様子は拳西の予想に反して落ち着いたもので、少々期待外れな思いをしながらも一服しようと眼鏡に手をかけた。

「あ、」

頭上から短い声が降ったのと同時、眼鏡を外しかけていた指先に修兵の手が重なってそれを阻止される。

「なんだ?」

「あ、あの…!」

恐らく無意識に取ってしまった行動なのだろう、急に慌て始めた修兵の手がぱっと離れて行くのを捕まえて、拳西はぐいとその手首を引いた。

「わ!」

ドサリと、手を引かれるまま体重が傾いて気付けば拳西の膝を跨ぐように座らされてしまった。
少しずれた眼鏡の奥から至近距離で見据えられてしまって、修兵はぐっと声を詰まらせながら息を飲む。
降りようにも拳西にがっちりと腰をホールドされてしまって逃げられない。
つい、だったのだ、拳西が眼鏡を外そうとするのが名残惜しくて思わ手を伸ばしてしまった。
だなんて、言えるわけがない。

「俺の顔になんかついてるか?」

「え?いや…」

「さっきから人の面チラチラ見やがって」

「!さっきって…!?」

「ここで仕事やり始めてからずっとだろうが」

「!!」

(バレてた…!!)

ぶわっと耳まで赤くなった顔をあわあわと歪ませながら、仰け反るようにして拳西と精一杯の距離を取った。
そんなにコレが気になるのかと、眼鏡のブリッジを押し上げながら唇の端を吊り上げる拳西の片手が離れた隙に拘束されていた膝から降りる。

「お、俺、書類と回覧回してきます!!」

そう言って卓上の紙の束をガッサリと腕へ抱えると、バタバタと隊主室を出て行ってしまった。

「ちゃんとアレ考えとけよー」

修兵が部屋を出る直前その背中へ向けて声をかければ、動揺したのか廊下でガコンッと何かにぶつかった音がして騒がしい足音が遠ざかって行った。


(可愛いやつめ…)



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