洗面所で顔を洗い幾分か目が覚めてすっきりした頭でリビングへ行けば、修兵お手製の朝食がテーブルへ綺麗に並べられていて思わず頬が緩む。

「お、」

早速、さっき修兵に"惜しい"と言われた味噌汁の具を覗き込めば豆腐とワカメが浮かんでいて、しかも今日はこの間拳西が絶賛した赤出汁らしい。
緩み切った顔で空腹を訴えて鳴った腹を掻きながら食卓に着く。
二人が見れば口を揃えて"親父臭い"と言われそうなものだが、今は自分しか居ないのだから良いだろう。
そんな事を思いながら美味しそうに湯気を立てている料理を眺めていた拳西の耳へ、


ガタンッ、


ドテッ、


バタバタッ、


なんとも騒がしい音と振動が届く。
今朝は何をどう絡まれているのか、様子を見に行こうと腰を上げかけたのと同時、修兵が逃げ込むようにしてリビングへ滑り込んで来た。

「どうした」

「阿近さんが…」

「おう」

「…今日のパンツ何色かって…」

「………」

涙目でずり下がったスウェットを押さえている修兵を哀れに思いながら、拳西は今朝も後で説教と拳骨一発かと思いながら呆れたような溜息を吐いた。




なんだかんだと一悶着しながらなんとか冷める前に朝食を開始してしまえば、後は穏やかに進む食事の時間に修兵の頬が緩む。
体格と活動量に比例している拳西は言わずもがな、阿近も細身ながら見た目に反して良く食べる方だと思うのだ。
職業柄あれだけ毎日脳を酷使していればその消費カロリーたるやと言う話だが、綺麗に食べてくれる様を見ているのは気持ちが良い。
コレが美味いアレが美味いと、そう感嘆の言葉をぽつりぽつりと零しながら、夢中になって食べ進める二人を嬉しそうに眺めつつ箸を進める修兵がふとした視線を感じて顔を上げる。
箸で出し巻き卵を摘まんだまま、視線の主である拳西を見て首を傾げた。

「なんですか?」

「いや…伸びたなと思ってよ」

そう言う拳西の視線は、ピンで纏められた修兵のサイドの髪へ注がれていて、修兵はあぁと言って頷いた。
拳西は、食事の前に少し伸びた髪を耳へ掛ける修兵の何気ない仕草が好きなのだ。
今日は残念ながらそれを見る事は叶わなかったけれど、これはこれで修兵の綺麗なフェイスラインに似合っていて可愛らしい。
思えばこれは、いつか修兵が伸びて来た髪が煩わしいと訴えた時にふと思い付いた拳西が施してやった髪型だ。
思うまま似合うだとか可愛いだとか称賛の言葉を掛ければ、修兵は照れ隠しのようにぽいっと口の中へ卵を放り込んで目線を反らす。
阿近が何やらこのエセ紳士だのむっつりだの喚いているが、拳西はそんな修兵を眺めるのに忙しいのでそれは華麗にスルーさせて頂いた。
それへ面白くなさそうに臍を曲げる阿近を宥めつつ、朝から白米を山盛りおかわりする拳西の食欲に二人して驚きつつ、時間に追われない穏やかな朝に修兵は始終ふにゃふにゃと表情を崩していた。



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