(なんとなく、怠い…ような…)


手にした書類の細かな文字が一瞬霞んだ様な気がして、修兵は眉間をぐりぐりと指先で揉み解した。
凝り固まった筋肉を解して顔を上げればブレていた焦点は元に戻っていて、ほっと息を吐き再びそれへと視線を戻す。
定例会の通知やら担当している記事の企画書など数枚に纏められている紙束をパラパラと捲るものの、どうしたものか内容がなかなかすっきりと頭に入って来ない。
一度集中力が切れてしまえば雑念が次々と割り込んで来て、今の今まで忘れていた筈の自身の不調に意識が行き始める。
ここ数日ほど少し体が重怠い様な気はしていたけれど、時折霞む視界もこめかみ辺りをツキリと刺す頭痛も割合―良くある事―なので、大した事はないだろうと高を括っていた。
放っておいても勝手に治る、そう自己完結するのもいつもの事で、修兵自身もそれを否と意識するような事も無く、挙句はいつの間にか忘れている事の方が多い。
それに片付けた端から増えて行く業務に、いちいち小さな不調を気にしていられる暇は無いのだ。
何よりここ数ヶ月は肉体的疲労も苦にならない程調子良く作業効率は上がっているし、新隊長を迎えて今の体制になってから隊のコンディションも目に見えて良くなっている。
たかだか己の小さな不調一つで水を差してこの流れを途切れさせたくないという意識と、拳西と共に日々の職務に就けると言う高揚感が修兵の身体を良く動かしていた。
そんな修兵の限界を見極める様に、苦々しい思いで物言いたげな鋭い視線を送っている男のそれにも気付かず、当人はどうにかなるだろうと首を傾けるばかりだ。

「檜佐木副隊長」

己を呼ぶ隊士の声にはっと顔を上げる。
いつになく何処か心此処に有らずという修兵の様子に気遣わしげな視線をやりながら、手にしていた書類を前へ差し出した。

「推敲致しましたので、ご確認をお願いします」

「あぁ、ありがとう」

そう言いながら立ち上がって受け取ろうと差し出した修兵の手が、するりと書類の端を掠める。
掴めなかった紙束に"あれ?"と思う間もなく、フッと視界が下がって背後に倒れかけた体を後ろ手に椅子を掴んで堪えた。
しかし堪えたのも一瞬で、掴み所が悪かったのか片側に体重を掛けられた椅子もろともバランスを崩しガクンッと膝が崩れる。

「っ!?」

「修兵!!!」

床にその体が叩き付けられる直前、弾かれた様に立ち上がった拳西が修兵の腰を掴んでそれを支えた。
己を支えた拳西の死覇装の襟元へ反射的にしがみついた修兵は、何が起こったのか理解していない様な表情で青白い顔を茫然とさせている。
そんな修兵に眉間の皺をより濃くした拳西がひょいとその体を抱え上げ、至極落ち着いた声音で"後を頼むぞ、すぐに戻る"と隊士達に告げて隊舎を後にした。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -