(あー・・・面白くねぇ)

ほんの僅かに開いていた屋上へ続く扉の隙間を横目に、一護はずるりと壁に背を預けて座り込んだ。

昼食を二人で共にした後、部の打ち合わせへ顔を出さざるを得なかった一護は中庭へ修兵を残して渋々それへ足を向けた。
ちっと行って来る、そう言って片手を上げる一護を促しながら、

「んじゃー恋次でも探すかね」

何の気も無しにそう呟いた修兵はひらりと手を振ってどこかへふらふらと歩いて行った。
本人にしてみれば本当に他意など皆無なのだろうが、部室にいる最中もあの一言がどうにも気になって仕方が無かった一護は、適当な理由をつけて打ち合わせの席を抜けて来てしまった。

そうして今に至る。

修兵を探して屋上へ駆け上がった一護は、微かに聞こえる二人の話し声に予想が当たっていた事を確信すると扉に手を掛けた。
途端聞こえて来た恋次の声に、扉を開け放とうとしていた手が止まる。

「あんた六車先生の事好きなのか?」

余りに直球過ぎる恋次の言葉に一護は思わず突っ込みの精神が疼き今すぐにでも横槍を出したくなったが、そこは恋次と同様自分も惚れている相手の色恋話かもしれないのだ、趣味は余り良くないかも知れないが少し様子を見させて貰う事にした。

途中までは良かった。

恐らく修兵は今の所自分達が危惧している様な感情を拳西へ抱いている訳ではないらしい。
そこまでで戻ってしまうか、顔を出していれば良かったのだ。
急に恋次の膝へ身を預け出した修兵を見て、ぴたりと、一護の息が停止した。
軽いスキンシップや冗談でしかけるセクハラなどそう珍しい光景ではない筈なのに、安心仕切った顔で寝息を立て始めた修兵と、酷く優し気にその髪を撫でる恋次の表情に、一護はどうにも入り込むタイミングを完全に失ってしまった。
と言うよりは、どことなく入り込めない雰囲気をこちらが勝手に感じ取ってしまったからかも知れない。
疎外感、と言うのには言い過ぎなのかも知れないが、嫉妬とない交ぜになった複雑な感情がもやもやと胸中を占拠する。
修兵とて、分け隔て無く接してくれているのは一護自身も分かってはいる上、元後輩として可愛がってくれている事も自覚はしている。
それでもこんな状況の時、恋次の方が自分よりも修兵と対等の立場に立てている気がしてならないのだ。
修兵は自分を弟の様に思ってくれているのかも知れないが、一護にとってそれは良い様で全く有り難くない面白くない話だった。
打ち合わせへ戻る気力もそこへ混ざる気分も完全に殺がれた一護は、やけに穏やかなその光景を壁に背を預けたままぼんやりと眺めていた。



「おー、こんな所にいやがった」



しばらく苛々とした気分を持て余していると、階段の方から覚えのある声で名を呼ばれた。

「おい一護、お前途中で抜けんじゃねーよ」

『空手部:部費申請資料』とラベリングされたファイルを右肩でぽんぽんと叩きながら、修兵の元クラスメイトで空手部主将である3年の黒刀がダルそうにこちらを見上げていた。
一護はバツの悪そうな顔を向けてからちらりと扉の隙間を見やると、立てた膝の間へ顔を埋めてしまう。

「うるせー」

「おーおー先輩に対して随分なこって、何辛気くせぇ面してんだおめぇ」

大股で階段を上がりながら近付いてくる黒刀に取り合わず、一護はそのままの体勢で黙り込んだ。

「ほー・・・、またフラれたか」

一護に倣って隙間から屋上の光景を見た黒刀が、面白そうにからからと声を立てて笑った。

「フラれてねーよ!つか声でけーんだよ!」

慌てて口を塞ぎにかかる一護に黒刀はニヤリと黒い笑みを向け、その手をべりっと引き剥がした。

「だっから言ってんじゃねーか、いい加減俺が貰ってやるってよ」

「誰が貰われるかよ!お前がいい加減その冗談やめろ!」

「はぁ〜相変わらず観念しねぇなぁ、なにがそんなに檜佐木が好きかねぇ〜」

「うっせ!ほっとけ!」

黒刀は一護を捕まえては時折この類の冗談でからかい倒すのだ。
この光景はもう十年以上経過した今でも変わらない。
幼くなかなか泣き癖の抜けない、まだまだ素直で可愛かった橙色の髪の少年は、隣近所に住む白髪の餓鬼大将にちょっかいを出されては泣いて喚いて怒っていた。
それでも懲りずに遊びの誘いに乗るのだから、それを満更でもないのだろうと受け取ったままその餓鬼大将は成長した。

「俺の方が檜佐木のあんなコトやらこんなコトまで知ってるぜぇ、巨乳の年上に二股掛けられてて俺に泣きついてきた事もあったなぁ、あと」

「な!なんだそれ詳しく聞かせろ!」

「あー?勿論一護の事も俺が一番知ってるぜぇ、あんな事もXXXもXXXXXまで見てっからなぁ」

かーっと顔を赤くして怒り出す一護に構わず、黒刀はいかにも楽しそうにげらげらと笑い続けている。
止まらない口を塞ぎに掛かろうとした一護の手をぱしっと掴み取り、そのまま立ち上がらせずるずると引いて歩き出した。

「ヨシ、捕獲。続きが聞きたきゃさっさと打ち合わせ戻んぞ〜2年坊主ー」

「ちょ、おい黒刀!コケる!放せ!放せぇぇえー!!」

引きずられながら廊下に轟いた一護の絶叫は、恋次の膝で涎を垂らさんばかりの勢いで熟睡している修兵の耳には全くと言って良い程届かなかった。


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