◇”目覚まし”の選択



1:メロディor音声

2:バイブ+メロディor音声

3:キス




あともう数分で起床時刻を知らせなければならない時分。
薄らと朝陽が差し込み始めた寝室で、修兵は拳西の隣に潜り込んでいるベッドの中、規則的な寝息の吐き出される口元を眺めながらうんうんと唸っていた。

いつも1か2しか設定していなかった目覚まし機能の選択肢に、修兵が冗談半分で"キスで起こす"という項目を追加したのはつい昨晩の事。
鼻で笑われてお終いかと思っていたのに、まさか拳西がよりにもよってそれを選択しようとは。
下心…がなかったわけではないけれど、いざそうされてしまうとどうにも行動に起こすまでの相当な思い切りと覚悟が必要で。
大真面目に"3"を選択して呑気に熟睡している拳西をじとっと見上げながら、修兵はどう仕掛けて起こそうかと考えあぐねていた。
それにしても改めてこうして眺める拳西は例え寝顔であったとしても、

(格好良いなぁ…)

と、思ってしまう。
仰向けのまま少し首を横に傾げているせいで晒されている首筋は男らしく筋張っていて逞しい。
形の良い耳とカーテンの隙間から差し込んでいる陽光をキラキラと反射している短い銀髪に、仕事の夢でも見ているのだろうか、その眉間には微かに皺が寄せられていてそれがまた色っぽく感じてしまう。
至近距離で眺めれば眺めるだけドキリと心臓が跳ねる程男前だ。

(うぅ…ちゅー、したい…けど、どうしよ…)

薄く開かれている唇を暫くぼんやりと眺めていたものの、そろそろ本格的に起こしにかからなければいけない時刻だ。
修兵は意を決して上半身をむくりと持ち上げると、真上から拳西の寝顔を見下ろす体勢になりそろそろとその顔を近づけていった。

「拳西さん起きて…」

唇を落とす直前でそう囁いて、修兵は拳西の唇…に重ねようとしたもののすんでで怖気づいてその鼻先へちゅっと口付ける。
途端、当の本人は寝ているし誰に見られているわけでもないのだけれど、修兵はぶわっと顔中に血を昇らせてうわぁあっと胸中で叫んだ。
だけれど、そんな修兵の胸の内など余所に、拳西は一向に目を覚ます気配を見せない。

「あの…拳西さん?…全っ然起きねぇ…」

とにかく、気恥ずかしさは本当に叫び出してしまいたいほどあったけれど、起きられなくて困るのは拳西だし修兵だって怒られるのはいただけない。
こうなれば自棄だ…修兵はそう腹を括って額や瞼、こめかみに眉間に頬、次々と雨の様についばむ様な口付けを落としていった。

「ん…んっ」

最初は躊躇っていたものの、一度箍を外して繰り返してしまえば後は心地が良いだけで、修兵は本来の目的も忘れかけてうっとりと拳西の顔中に唇を落とす。
一通りくまなく口付けて、あと残すは唇のみだ。
修兵ははぁっと熱くなった吐息を小さく吐くと、未だ微動だにしない拳西のその唇へその名を囁きながら己の唇を重ねた。
柔らかな薄い皮膚と温かな体温が伝わるのが気持ち良くて暫く重ねていれば、ふっと拳西の口元が緩み小さく笑うかの様な吐息を唇に感じる。
"あっ!"と身を引こうとしたのも束の間、がっしりと後頭部を掴まれてぐっと深い口付けを与えられた。
熱い拳西の咥内の温度を感じてくらりと眩暈を起こしかけながら、修兵は性急に奪われた呼吸に必死で応える。

「んむっ、ちゅっ…ぶはっ!!」

「はっ、もうギブか?」

苦しくなって慌ててべりっと顔を離せば、拳西は肩を震わせてくつくつと喉の奥で笑いながらいかにも悪戯げな表情を浮かべていた。

「ちょっ、拳西さん起きてたんですか!?」

「まぁな、なんか勿体なくてよ。なっかなか口にしてくれねぇし」

「んな…!」

実は割と早くから起きてましたと言う拳西の台詞に、修兵は顔中を真っ赤にしながら慌てふためいた。
と言う事はだ、拳西の寝顔をじっと眺めていたり時々触れてみたり百面相していたりしていた所からきっと知っているに違いない、早朝から悶々としていたこちらの恥じらいを返して欲しい。
修兵は暫く赤い顔であたふたとしていたものの、とうとう臍を曲げてしまったのか眉間に皺を寄せてぶすくれ始める。
不細工な顔すんなとからかってやろうと手を伸ばした瞬間、ガツンッと、拳西の鼻先に強烈な衝撃が走った。

「ぶっ!!!」

己に圧し掛かっていた重みは一瞬にして消え、なかなかの高さから落下した小型化した修兵が拳西の鼻を直撃していた。
赤くなった鼻を擦りながら小さなボディを掴んでがばっと起き上がる。

「お前ぇ…っ!」

「ざまぁみろ!」



――

この後、修兵は拳西から無限くすぐりの刑にあいます。


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