◇アプリの相性
タンッタンッと言う軽快なタッチ音とスライド音が響く中に、うぅんだの、オイだのの呻き声が混ざる。
通常通りの操作とは明らかに違う、高速で断続的に操作される動きに、修兵は沸騰しそうになる小さなボディをフルフルと震わせて堪えていた。
仕事をしている時以外の拳西は、案外おっとりと暇を持て余している。
それほど趣味があるわけでもないのか、本やら雑誌を読み耽っていたりゆったりとコーヒー片手に修兵の話し相手になってくれたりふらりと散歩に出掛けたり。
そんな拳西が最近妙に熱中しているものがある。
同僚の平子が面白いからやってみろと勝手に拳西から奪った修兵の中へダウンロードした、シューティングゲームのアプリだ。
ステージごとに物陰から急襲して来るゾンビを一体残らず殲滅していくガンシューティングで仕様は至ってシンプルなものだが、修兵はこの手のアプリが苦手だった。
ゾンビの断末魔の顔も絶叫も怖いし、慣れない高速連打操作は耐え難いし、何より熱中する余り拳西に話しかけても相手にして貰えなくてなんだか面白く無い。
おまけにゾンビの登場と共にぎゃあぎゃあ叫んでいれば怒られるのは当然で、修兵は完全に臍を曲げながら慣れない操作に耐えていた。
「…あの」
「…おう」
「…拳西さん」
「…おう」
「これ、あっ!も…っやめません!?」
「…どうして」
「だってくすぐった…っちょ、それやだ!」
「…あぁ逃げられちまったちょっとお前黙っとけ」
「!!」
いくら名前を呼んでも返事は上の空、怖いと言っても聞いてくれないし何より全身が熱を持ってしまってむずむずする。
挙句”黙っとけ”とまで言われて修兵はより一層ぶすくれながらゾンビに夢中な拳西をじっとりと睨み上げた。
(ゾンビ怖いし気持ち悪いし、変な感じするから嫌だって何回も言ってるのに…!)
こうなれば…と、修兵は少し考えた末に最終手段と言わんばかりにゲーム画面をブツンと強制終了してしまった。
突然切り替わった液晶の画面を見て拳西の眉間に皺が寄る。
「あ゛!?オイ!」
「だって拳西さん全然話聞いてくれないじゃないですか!」
「だからって強制終了する事ねぇだろうが!せっかくいい所まで…」
「ふん…」
そう言って鼻を鳴らすと、修兵はもう知らないとばかりに電源を落としてしまう。
それを見て、より一層眉間の皺を深くした拳西のこめかみの辺りがひくりと震えた。
「お前なぁ…今日ベッド入れてやんねぇぞ」
「え!やだやだ一緒に寝ます!!」
拳西の一言にパッと電源を入れた修兵は、カタカタとボディを震わせながら駄々を捏ねる。
硬いテーブルの上で一晩過ごすのだけは御免だ、拳西の匂いのするふかふかのベッドで例え拳西に押し潰されようが温かい体温のすぐ隣で眠るのが修兵の一日の終わりの楽しみなのだ。
「だったらちっとは我慢しろ」
「…拳西さん、俺が横にいないと起きられないくせに!」
「…、……」
「(勝った…!)」
――
修兵に起こして貰えないのは拳西にとって死活問題。