※黒/バス
 青黒+火黄前提のちょっと青火でまとめていちゃいちゃです














―Sugar content of shimmer.






―…りがとう…ざいましたぁ〜。


レジを打ったやる気の無い店員の声を背中で聞き流しながら、コンビニの自動ドアが開いた所で立ち止まる。
ほんの数分前までこの世の天国かと思う程に涼しかった店内から一気に猛暑の中へ放り出されて、瞬時に額から顎に掛けてじわりと流れる汗を手の甲で拭った。

「「う゛ぁっつ…!!!」」

「やべぇよコレ、まだ出たくねぇ…」

「…アイス溶けっから行くぞ、つーかお前荷物持てよ」

棒付きのソーダアイスと炭酸飲料数本が入ったビニール袋を火神に持たせた青峰が、長身を丸めて両膝に手を付きながらうんざりと項垂れた。
考えればこの猛暑の中良く何時間もぶっ続けでストバスが出来たものだと、我ながらバスケに対する集中力と熱中ぶりは常人のそれを逸していると思う。
それはバスケコートで自分達の帰りを待っている黄色い頭と一番にぶっ倒れた水色頭と、青峰の隣を歩くこの男にも漏れなく言える事なのだけれど。
何かに熱中して夢中で体を動かしている時には心地良いとすら思える暑さだった筈なのに、一度その集中を切ってしまえば一気に疲労感が襲って来る。
ざまあみろとでも言う様に照り付ける太陽とそこかしこでけたたましく鳴いている蝉の声が、体感温度を嫌でも上昇させた。

「クッソ…黄瀬の癖にチョキなんぞ出しやがって、アホらしくパー出せパー」

「お前じゃんけん弱ぇよな」

「うるせぇぞバ火神、テツは最初に絶対グー出すっつってた癖にお前も負けてんじゃねぇか馬鹿か」

「…アホ峰に言われたくねぇ!」


「「あ゛ぁー……あっちぃなクソッ…」」


この猛暑の中、例に漏れなく真っ先に音を上げて倒れ込んだ黒子の"アイス食べたいです"の一言でバスケの勝負関係なくじゃんけんでパシリに駆り出されてこの状況だ。
コートから歩いてほど近いコンビニとは言え、この暑さのせいで目的地までの距離は倍にも思える。
暑さも距離も日頃のトレーニングに比べればどうと言う事も無いのだけれど、散々消耗した体力の残量はもうそれ程多くはない。
数分歩いただけで止め処なく流れる滴を腕でぐいと拭っている火神を横目で見遣れば、汗ばんで項に貼り付いた襟足の髪と暑さで微かに赤く染まっている喉仏がやたらと男臭かった。
男なのだからそれは当たり前だろうと思うのだが、火神のこういう部分を不意に意識する度に青峰の脳裏をいつもあの黄色い頭がチラつく。
わんわん鳴きながら嬉々として己の後ばかりをくっついて離れなかったあのヒヨコ頭が、いつの間にか目の前の男にべったりと貼り付いて離れなくなったのはいつ頃からだったか。
元より黄瀬に対してそういう意味で特別な感情や独占欲を抱いた覚えはないものの、最初の方こそ懐いていた犬っころが構って来なくなった面白く無さ位は抱いていた様に思う。
ガラにもないと思いながら、それでもアイツの相手がコイツで良かっただなとと飼い犬を引き取られたブリーダーの様な妙な感情を持っている自分に青峰は我ながら呆れていた。
そう言えば、火神は自分と黒子の事をどう思っているのだろうか。
当人に自覚が有る無いに関わらず、少し見ていればあからさまな程火神は黒子を甘やかしている節がある。
それが己が黒子へ向けている感情とは全く違う類のものである事は分かっているのだが、己の相棒の彼氏が元相棒で自分の好敵手だと言う事に火神は火神で特別何か思う所もあるのだろうかと言う素朴な疑問が浮かんだ。
浮かんだものの、然して物事を深く捉える性質をしていない男だから大した事を考えているわけでも無さそうなのだけれど。
自分の単細胞ぶりは棚に上げてそんな事を思っている青峰の横で、その視線に気付いているのかいないのか、火神がぼそりと呟いた。

「お前…黒子とは上手くいってんのかよ」

チラリとこちらを一瞥した後、何処かぶっきらぼうに唐突な質問を投げ付ける火神に青峰はポカンと数秒口を開けた後ぶはっと吹き出した。
さっきから一言も発しないと思えば同じ様な事を考えていたのかと思うとどうにも可笑しい。

「はっ、ったりめぇだろうが、見てりゃ分かんだろ」

一頻り笑った後なんとも余裕の表情で唇の端を吊り上げる青峰に、火神は"何笑ってやがる!"だの"そりゃそうだけどよ…!"だの不満の声を上げている。
大方保護者的な目線で黒子を見ているが故の発言だったのだろうが、デカイ図体で頬を染めながらムキになって反論をしてくる様はなかなか面白い。
青峰はそんな火神を散々指を差して笑い飛ばすと、満足したのか疲れたのか引き攣れた腹筋を宥める様にして腹を擦りながらはぁっと大きく息を吐いた。
火神は青峰の笑いが治まっても未だ不機嫌そうに顔を歪ませている。

「はーっ笑った腹痛ぇ!それよりそっちはどうなんだよ、お前にベタ惚れなんだろ、アイツ」

そう言う青峰の言葉に一瞬不意を突かれた様にきょとんと眉間の皺を緩めた火神の表情が、ふっと和らいだ。
この先にあるストバスのコートで待つ人物を脳裏に描いて酷く優しい目をしながら、その頬には先のそれとは違う赤みが差している。

「あぁ、まぁな」

その声音はとても穏やかで、青峰が想像する以上にいかに火神が黄瀬の事を想っているのかがそれだけでありありと伝わって来る程だった。
それは今までに青峰が見たことも無い様な表情で、

(…コイツでもこんな面すんのか)

そう思った時にはもう手が伸びていて、ガサガサとビニール袋を揺らす火神の腕を掴むと青峰は路地裏の日陰へ押し込む。

「なっ!!イッテェあおみ…んっ!?」

ドンッとブロック塀へ火神の背中を押し付けて逃げ場を奪いながら、喚こうとする口を己のそれで塞いだ。
一瞬何事かと目を丸くして固まっていた火神が、己の身に起きている事を自覚してコンビニの袋をぎゅっと握り締めながら青峰の胸を拳でドンドンと叩く。
そんな事は意にも介さず、青峰は勢いのままに噛み付く様な口付けを火神へ施していた。
自分でもどうしてこんな事をしているのかと思ったけれど、したいと思ってしまったのだから仕方が無い。
人よりも自制や我慢の類が効かない事に対する自覚は一応持っているつもりだ、いつだって考えるより先に体が動いてしまう。
その結果がいかなる事になっても目の前にある本能と欲求が第一優先なのだ、想い人の顔面イグナイトが頭を過ぎったけれどもう遅い。
何がしたいのか、火神自身になのか火神の中にあるものを垣間見てしまったが故に対するものなのかは分からなかった。
思いの外柔らかい感触がしっとりと唇に合わさって、そこから伝わる火神の体温が酷く熱い。
始めの方こそじたばたと抵抗を示していたものの、呼吸を奪う様にして舌を挿し込んで口腔内を荒らせば何をどう張り合おうとしているのか火神の舌先が押し返す様にして絡まって来た。
こんな状況でも負けず嫌いを発揮している火神が可笑しくて、青峰は喉の奥でクツクツと低く笑う。

(……あっちぃな…)

火神の髪を掴んで舌先で口蓋をくすぐれば負けじと歯列をなぞって来た
耳をつんざく勢いで鳴いていた蝉の声がやけに遠い、火神は青峰越しの遥か向こうでゆらゆらと揺れて見える陽炎に眩暈がする様な錯覚を覚える。
ぽたりと滴り落ちる互いの汗が混ざり合って足元のアスファルトの色を変えていた、それさえもすぐに蒸発させてしまいそうな太陽から避ける様にして日陰に身を潜ませながら口付けを繰り返す。


((あぁー…いつもこんなキスされてんのか…アイツ…))


「ふ…ぅ」

「………」

やけに艶っぽく漏れた火神の吐息を合図にして離された唇同士は細い銀糸を繋いでいて、火神は慌ててそれを手の甲で拭った。
目の前で舌なめずりをしている青峰の余裕が少し憎らしくて目を逸らす。

「…アイス…溶けてっかな」

「あぁ…大丈夫だろ」

帰らなければと路地から踵を返そうとする火神の肩を青峰が再びぐっと押し付ける。

「!?なんだよ…!急ぐぞ!」

「いや、ワリィ、勃った」

「…………はぁっ!?」

何を言い出すのかと思えばなんとも無粋な発言をする男にビキリと青筋を浮かべた火神の膝が、青峰のそれにクリーンヒットする。
蛙の潰れた様な断末魔の悲鳴を上げた青峰が前屈みで路地裏に崩れ落ちた隙に、火神はするりと目の前を擦り抜けた。

「〜っの野郎!!クソッ!使いモンになんなくなったらテツが泣くだろうが!!!」

涙目で喚く青峰を見下しながらフンッと鼻を鳴らしてざまあみろとでも言わんばかりに口端を吊り上げる。

「したら俺と黄瀬で面倒見てやっから心配すんな。先に着いた方がアイス代奢りな!!」

「あっ!!テメェ卑怯だぞ!!」

勝手に勝負を吹っ掛けて走り出す火神の後を、青峰もどうにか某所の痛みを収めながら全力疾走で追いかけた。





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