生徒達が各々振り分けられたポジョションで、座講の時よりも遥かに活き活きとした顔で動き回るグラウンド。
未だ体育授業の真っ最中であるにも関わらず、修兵はそんな生徒達を尻目に一人ぽつんと校庭の隅で腰を下ろしていた。

「檜佐木さん何してんスか…?」

「修兵もやれよ」

いつもならば率先して動き回っている筈の修兵が今日に限って大人しい事に、恋次も一護も不思議そうに首を傾げた。
一護が腹でも痛いのかと問えばそうではないと言う。
気分が悪いのでなければどうしたのだと、いくら理由を問い質してもあぁだのうんだの鈍い返事が漏れるばかり。

「と、とにかく今日俺無理、ここで見てっから気にすんな」

「いや気になんだろ」

「修兵がいねぇと人数合わねぇじゃんか、ほら」

なかなか腰を上げようとしない修兵をどうにか引っ張り出そうと、グローブをぽいっと恋次へ投げた一護が大股で歩み寄り修兵の腕をがしりと掴んで立ち上がらせようとする。

途端、

「イッテェッ!無理無理…っ!」

「「え…?」」

一護に腕をぐいぐいと引っ張り上げられて悲鳴を上げた修兵の声に二人の目が点になる。
そして同時に、二人の脳裏へ同じ予想がふと過ぎった。

「もしかして檜佐木さん…」

「筋肉痛…?」

そう言えば昨日、”体力測定”と銘打って一時間丸々授業の時間を使い実施されたそれに、やけにムキになって修兵が挑んでいたのを思い出す。
元はと言えば焚き付けて張り合う様な流れを作った恋次の所為でもあるのだが、それでもあの様は年下の一護でも「子供か」と突っ込みたくなる程のものだった。
張り合う、と言えば一護と恋次の二人も別の意味で修兵の事を言えたものではないのだけれど。
各々ちょっかいを出しつつ、どちらが修兵の腹筋の補助をするかだのなんだの邪な思惑を抱きながら傍らで騒がしく争っていたのだ。
そんな二人の方が修兵よりも遥かに無駄な体力と精神力を使っていたと言うのに、そこはさすが現役の体育会系部員。
今現在帰宅部である修兵が、元よりの運動神経はあれど到底現役二人の筋力及び体力に敵う筈もなく、結果全ての項目で敗北した挙句一人だけがこの有様だ。

「う…うるせぇ…!」

図星を突かれて悔しそうに声を上げる修兵に、一護の中へちょっとした悪戯心がむくりと湧き上がる。

「なっさけねぇなぁ、んなもん動けばすぐ治んだろ」

「え…いやいいって…」

ニヤリと口端を吊り上げた一護に嫌な予感を覚えて修兵は後ずさるも、くるりと背後に回られてその背中をぐいーっと無遠慮に前へと押された。
所謂昨日も恋次とミリ単位で張り合っていた長座体前屈の体勢を取らされる。

「イッ!!!ッテェッ…!!!」

「お、やっぱ修兵柔らけぇよな」

(…!!!!)

ぐいぐいと一護に背中へ圧し掛かられながら柔軟さを見せるものの、やはり見てくれに反して痛いらしい。
ビキリと腰から腿の裏辺りにまで走る突っ張る様な痛みに顔を歪めて、唸り声を上げながらパサパサと髪を振り乱している。
そんな修兵の様子を、恋次は傍らで鼻を押さえながら見下ろしていた。

(エッロ…!!!)

恋次の邪念などいざ知らず、当の修兵は一護のちょっかいから逃れるのに必死だ。

「おい恋次、そっち引っ張れ」

「偉そうだなお前!」

そう言いつつ乗り気の恋次は言われるまま修兵の目の前へ腰を下ろし、投げ出されている両手首をぐいっと手前へ引き寄せた。

「ぐあっやめろ!やっ、イッテェ!!お前らぁ…!!」

前後から二人に拘束をされて”性格悪い”だの”後で覚えてろ”だのと喚きつつも、涙目になりかけているそれでは全くもって迫力がない。
年上をいじめながら楽しげに笑っている一護の手がとある一点を掠めた瞬間、修兵の腰がびくりと跳ねる。

「ぎゃっ!」

「…もしかして修兵…ココ弱ぇ?」

己の手が押した脇腹の辺りへ視線を落とした一護が、そのままがばりと背後から修兵を羽交い絞めにした。

「よし、恋次、今だ!」

「よっしゃ」

「ちょ、待て待てっ!!」

無駄なチームワークを発揮して、恋次が修兵の脇腹をくすぐりに掛かる。
薄い脇腹をがしりと鷲掴みにされて、ぞわりと走った感覚に堪らず修兵はじたばたと両足をばたつかせた。

「ぎゃー!!なにすんだバカッ」

”好きな子ほどイジメたい”とは良く言ったもので、一護と恋次の二人は嬉々として全力で悪戯をしに掛かる。
頬を上気させながら痛みとこそばゆさに必死に身を捩る様は、健全な男子高校生にはいかにも目に毒だ。

「やめっ!あっ!ひ…っ!!ヤメロォォォオォーッ!!」




ゴンッ


ゴインッ


スパーーーンッ!!!




「「「ッ!!?」」」



修兵の必死の悲鳴が校庭中へ轟いたのと同時、三人の後頭部で盛大な打撃音が鳴り響いた。

「お前らぁ…」

どう見ても”野球”をしているとは思えない体勢の三人が見上げた先、体育教師の拳西が先程振り下ろしたメガホンを片手に仁王立ちをしていた。

「いい度胸だ、今から一時間俺のノック受けるのと外走って来るのと、どっちか選べ」

「「「…外で…オネガイシマス…」」」



















「くっそ…結局いっつもこんな感じじゃねぇか!」

「うるせぇ黙って走れ、クソ…なんで俺まで…!」

「いや、あれは修兵が悪いっつーかなんつーか…」

「なんでだよ!!俺のどこが悪いってんだっ!!」

「「どこがって…」」



((筋肉痛の”修兵は””檜佐木さんは”、エロい))






― 終わる ―



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