コキ。



ゴキキッ。



窓の外から遠く鳴る蝉の声と、テレビ画面から届く映画の効果音が流れる部屋で、時折耳慣れない妙な音が響く。





現世のエアコンとやらを余り好まぬ拳西に合わせて設定された、緩い温度設定の部屋。
修兵は冷たくて気持ちが良いと言う理由で、直接フローリングの床に腰を下ろしている。
すぐ背後のソファに腰掛ける拳西の右脚に肩を寄り掛ける様にして、食い入る様に画面へ見入っていた。
固い板間ではなく隣に座れば良いと促してはみたものの、存外修兵はこの体勢をお気に召しているらしい。
それはそれで、膝頭にこてんと頭を預けているその様はなかなかに可愛らしいものがある。
それに、拳西はこの角度から修兵を眺めているのも好きだった。
首筋にギリギリ掛からない程度の艶やかな襟足の髪が、少し汗ばんだ項に貼り付いている。
形の良い小さな後頭部や、タンクトップを着ているせいで剥き出しになっている筋肉質な腕に白くて丸い肩口、そこから背中へと伸びるライン。
何処を取っても均整が保たれていて、それでいて己とは違うどこか中性的で危うげな色香も湛えていると、視線を送りながらぼんやりと思っていた。
いつの間にか映画の内容よりもそちらに意識を奪われてしまって、ふと画面に視線を戻した時には大分話が進んでしまっていた様だ。
せっかく修兵が興味津々で持ち込んだ現世のDVDだ、後で話を振られても観ていなかったなどと言えば怒られてしまうだろうか。
己に向かって拗ねて見せる様な修兵の顔を想像して、拳西は一人で苦笑いを浮かべた。


コキッ。


そんな拳西の耳にまた妙な摩擦音の様なものが届いて、拳西はその音の出所を探った。
どうやらそれは真下に座る修兵から届いているらしい。
時折肩や首元に手をやりながら、関節を鈍く鳴らしている。


コキン。


一つ大きな音がしたかと思えば、首を右に倒したまま修兵がぷるぷると小さく震えて固まっていた。

(痛かったんじゃねぇか?今の)

思わず吹き出してしまいそうになるのを堪えて、拳西はそんな修兵の首元へ手を伸ばした。
唐突に首筋へ伸ばされた指先に、驚いた修兵の肩が跳ねる。
それに構わず、拳西は晒されている方の首の付け根をぐぐっと押した。

「あだだ…っ」

修兵の口から漏れる、色気の無い呻き声。

「情けねぇな、護廷の副隊長様が肩凝りか?」

「う゛…ここの所ちょっと、事務作業の方が多くて…」

そう言われてみれば、ここの所討伐や派遣任務よりも瀞霊廷通信の編集やら決済やらそちらの方が立て込んでいるのだと嘆いていた。
こんな風に現世で共にゆったりと過ごす事が出来るのも久しぶりなのだ、こうして時間を作る為にそれだけ詰めて業務を熟していたのだろう。
日頃から体を動かす機会は多いにせよ、ならば肩の一つも凝って仕方のない話だ。
だが、白やひよ里達に"筋トレ馬鹿"と称されている拳西には、余り縁のない感覚だった。

そんな事を思いながら、拳西は手を休める事なく凝り固まった修兵の首やら肩やらの筋を揉み解していく。

「んー…痛っ、あ、きもちぃ…」

硬くなった筋やらツボを温かい掌と程好い力加減で押されながら、びくびくと震えつつも身を預ける。
拳西にマッサージを施して貰うなど途轍もない贅沢だと思いながらも、この心地良さはなんとも手離し難い。
一方拳西は、己の施しに逐一挙動を示す修兵の反応が面白くて、少しずつその行為を大胆な動きに変えていった。
気持ち良さに段々とろりとして来た修兵の纏う空気を感じ取って、拳西は悪戯にその背へ手をやりぐぐーっと上体を前へ倒させた。

「い゛っ、いだだだだ!!ちょ、痛っ!拳西さん!」

斜め45度の前傾を越えた辺りで、修兵の背筋がぴんっとしなり悲鳴が上がる。
それを見て呆れた拳西が、ふっと一つ笑いを漏らした。

「おいおいお前、そんな体硬かったか?」

「だってこの体勢でいきなり…!」

如何にも"痛い"と言う様な顔で恨めしそうに振り返った修兵が抗議する。
そんな修兵を見下ろしながら、拳西は何やら顎に手を当てて考え出した。

「柔らけぇ筈なんだがな…ヤッてる時なんざ特に」

「ヤッ、なっ!?何言ってんですか!!」

とんでもない事を口にした拳西の言葉に、修兵は一瞬にしてあらぬ事を想像したのか、ぼんっと顔を真っ赤に染め上げた。
拳西は特に他意も無くただふと頭に沸いた素朴な疑問を口にしただけなのだろうが、言われた修兵はそれどころではない。
声を荒げたかと思えば、今度はそんな自分のリアクションに居た堪れなくなったのか、口元を隠しながら気まずそうに視線を泳がせている。
思いの外大きく反応を返した修兵に、胸の内でむくりと沸いた悪戯心。
にやりと口端を上げた拳西に"まずい"と察したのも束の間。
ソファから立ち上がった拳西は、修兵が逃げようとするのを両手で阻止しながらどっかりと目の前に腰を下ろした。
ソファと自分の体との間に修兵を挟みながら、修兵の背中をソファへと押し付ける。
開いた脚の間に己の体を割り込ませて、ぐいと膝頭を掴んで左右に割り開いてしまった。
自然、しなやかに折り畳まれる細い腰。

「う、わ…!」

急な事にバランスを崩しながらも、拳西の手首の辺りを咄嗟に掴みながら堪える。
自分の胸元に開かされた両膝がぴったりとくっ付きそうな体勢にさせられて、修兵は羞恥に目許をサッと染めた。
射る様に見下ろして来る拳西の視線からなんとか逃れようと、ぎゅっと目を瞑りながら俯いた。

「ほら、な?股関節なんざ凄ぇ柔らけぇんだ…知ってたか?」

体を割り開かれたまま耳元で悪戯に囁かれて、びくりと息を詰まらせる。
衣服の乱れなど一切無いままであるにも関わらず、あらぬ行為を意識させられる互いの体勢、逆にそれがより一層の羞恥を修兵に与えていた。

「も、分かったからっ離して下さ…それに映画途中っ!」

「あぁ」

修兵の抗議など意にも介さず、拳西は器用に後ろ手を伸ばしブツリとテレビの電源を切ってしまう。
逃げの口実を断たれて、修兵は困った様な非難の視線を拳西へと向けた。

「拳西さん…意地悪だ…」

「なんだ、俺はただお疲れの副隊長を解してやろうとしてただけだ、なぁ、修兵?」

「え、えろおやじ…っ!」

「嫌いじゃねぇだろ?」

「っ!」

楽しげに口角を吊り上げて、拳西はぐいと迫りながら修兵の首筋へ弱く噛み付いた。
より密着したせいでいよいよ両膝が胸元にぴたりと付く体勢にさせられて、修兵は苦しげに短く息を吐きながら狼狽する。

(食われそ…)

羞恥に滲む視界の隅で、ギラリとした情欲の光を湛えた拳西の視線を捉える。
ゾクゾクと背筋に走る震え。
半ば強引に、性急に引き出された熱に戸惑いながら、それに容易く押し負けそうになってしまう。
がりがりと首筋を甘噛みしている拳西の服の裾をきゅっと掴む手に力が籠った。

「あぁー…食っちまいてぇ…」

己の心の内を見透かしたかの様な拳西の呟きにドキリと心臓が跳ねた。
いつまでも翻弄されているのが少し悔しい。
ドキドキと暴れる心音に気付かないふりをしながら、修兵はぐっと引き寄せた拳西の耳元に一つキスを落として囁いた。

「残したら…怒りますからね…」

ほんの微かに染まったかの様に見えた拳西の耳朶に、少しだけ抱いた優越感。
だけれどそれもほんの一瞬。
がばりと顔を上げた拳西の表情に、再び心臓が跳ね上がる。

「言いやがったな…生憎お前に関しちゃ好き嫌いは無ぇんだ、覚悟しろよ」

「…〜っ!」

どうしたっていつまでも勝てない自分に情けなさと悔しさを覚えながらも、結局はいつだってこうして絆されて身を委ねてしまうのだ。
せめて最後の悪足掻きにと、修兵はバシッと拳西の背を掌で叩きながら一言呟いた。

「お、れも…全部食ってやるっ!!」

途端、拳西がぶはっと盛大に吹き出した。

「あぁ、そりゃあ楽しみだ」

思わず笑ってしまった自分の反応に少し臍を曲げかけている修兵をあやす様に宥めながら、拳西はその言葉通り"食欲"さえもそそる様な白い首筋の辺りに再び柔らかく歯を立てて、存分にその甘さを味わった。





―END―




修兵誕生日おめでとう大好き!
誕生日なのに全然関係無い話な上に頂かれてるけどほんとにおめでとう…!←





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