じりじりとした陽射しが頭上からも足下からも照り返して、じっとりと体中の水分を奪っていく。
背中や額から流れる汗にうんざりしながら、修兵、一護、恋次は三人連れ立って、放課後の帰宅の途を歩いていた。
「ゔあっちぃ…」
呻くのもこれで何度目か。
思わずと言った風に恋次が額を拭いながら呟いた。
「…だからソレ何語だっつーの。お前の頭のが暑苦しいわ!」
「うっせーな…目に痛ぇんだよこのオレンジ頭!」
この暑さの中でぎゃいぎゃいと言い合いを続けている恋次と一護を尻目に、人一倍夏に弱い修兵は喋る気力も無くただ二人の後ろについてぐったりと歩いていた。
そんな修兵をチラチラと振り返りながら、恋次が声を潜める様にして一護へぼそりと耳打ちをする。
「それにしてもよ…アレはちょっとヤベェだろ…なんつーかこう、水も滴るっつーか…」
「…、…!」
恋次に倣って振り返った一護が、ぎょっとして思わず絶句した。
そんな修兵はと言えば…。
真夏の陽射しに負けて悩まし気に眉を顰めながら、ネクタイを大きく緩めた襟元を掴んでバサバサと仰いでいる。
しっとりと頬や首筋に張り付く黒髪の先。
その首筋を伝う汗がキラキラと反射して、白い肌を胸元へと伝い落ちていく様は妙に艶めかしかった。
おまけに酸素を求めて喘ぐ様に薄く開かれた唇が、体内に篭もる熱のせいで常よりも赤く色付いている。
一護と恋次の喉が、二人同時に仲良くゴクリと上下した。
((夏ってけしからん…っ!!))
二人分の邪な視線を浴びているにも関わらず、当の修兵はそれどころではない。
全身がドロドロに溶けて蒸発してしまいそうなこの熱から、どうにかして逃れたい、それだけで茹立った頭が一杯だった。
そんな修兵の視界の隅。
ふいに映り込んだものに足が止まる。
「あ…」
前を行く二人のシャツの背中を、むんずと掴んでくいくいと引っ張った。
同時につんのめった一護と恋次がぐるりと振り返る。
「うお!?」
「なんスか!?」
「アイス食べたい…」
* * * * *
虚ろな目での上目遣いは、二人にとって凶器以外の何物でも無く。
修兵に懇願されるまま、小さなアイスクリームスタンドに一見ガラの宜しくない男子高校生三名が群がる光景は、端から見れば少々異様だ。
各々注文を済ませ、積み上げられたアイスクリームを片手に並んで歩く。
迷わずコーンを選択した修兵に小さくガッツポーズをする恋次へ、一護はなんとも冷ややかな視線を送っていた。
一方、ようやく涼を手に入れた修兵はなんとも上機嫌だ。
「あぁー、生き返る…」
「イチゴアイスっておまっ、なんの冗談だソレ…っ!」
「う、うっせぇな!美味ぇんだよほっとけ!!」
一護のセレクトがお子様だのなんだのと笑う恋次に、赤い顔をして青筋を立てる。
「なぁソレ一口ちょうだい」
自分のアイスと一護のアイスを見比べた修兵が、一番上に乗っているそのイチゴ味を指差した。
「あぁ、ほら」
差し出されたそれに、一瞬修兵の動きが止まる。
恋次の脳裏に過ぎる嫌な予感。
「…俺のスプーン入れたら味混ざんじゃん」
そう言って、一護へ催促する様にして口を開ける。
「うぇえ!?」
(やっぱりか…!!)
いわゆる"あーん"待ちの修兵を見て、二人がカチンと固まった。
"早くしろ"と促す声に、一護が慌ててスプーンを差し出す。
ぱくり。
「ん、」
途端、一護の内にむくむくと沸き上がる、庇護欲ともなんとも言い難い甘酸っぱい様なむず痒さ。
それに浸る間もなく、今度は目の前へ修兵のスプーンが差し出される。
「こっちも食う?」
「く…食う!」
ほんのりと鼻に抜けるミントの香りと甘いチョコレート。
「あ、美味ぇ」
「だろ!?コレ好きなんだよなぁー」
(こいつら女子高生か…っ!!)
ざらざらと砂を吐きそうな光景を前に、恋次の脳内は羨ましさと煩悩共に八割増しだ。
「檜佐木さん…俺のも食います?」
恋次が差し出すアズキ味のアイスの乗ったスプーンを見て、修兵は少し眉を顰めて見せた。
「俺、あんまソレ好きじゃねぇ」
「え゙…まじで…?」
あえなく振られて項垂れる恋次に、一護は勝ち誇った様に不敵な笑みを向けた。
「残念だったな」
「くっそ…」
「あっ!」
短く上がった修兵の声。
振り向いた二人の視線が釘付けになる。
修兵の持つアイスクリームの下段。
暑い外気に負けたアイスが緩く溶けて、コーンを伝いその雫が滴り落ちている。
手首の辺りにまで垂れてしまったそれを舌先で舐め取る仕草は、二人にとっては目の毒でしかない。
赤い舌の先で、とろりと溶けるバニラアイス。
「あーぁ、べったべた…て、何見てんの、お前等」
「いや…」
「別に…」
((夏ってけしからん…っ!!))
終わる