橋田とあの子

※八虎視点


 ベラスケス展を一通りまわった俺たちはミュージアムショップに立ち寄った。俺は画集くらいしか買ったことがないし、今日もそのつもりだけれど、よく見たら普段使いできそうな小物から誰でも知っているような名画のレプリカまで、大小も値段も色々な商品が並んでいる。

 店内の一画は企画展のコーナーなのか、ベラスケスの絵がデザインされた商品がまとめられていた。クリアファイルだとかスマホケースだとか、ついさっき見た本物ほどではないけど綺麗に印刷されている。

「橋田なんか買うの?」

「ああ、名前ちゃんにお土産や」
 橋田の手には銀色の枠で縁取られたしおりがあった。展示で始めに見た『青いドレスのマルガリータ王女』だ。

「名字さんもそういうの好きなの?」
「好きそうやね、一緒に美術館行くこともあるしなあ」
「橋田すごい詳しいからどこ行っても楽しいだろうね」

 名字さんとは何度か会ったことがある程度で、正直言って橋田の彼女ということ以外よく知らない。強いていうなら世田介君の話にもちらっと出てくるから世田介君の苦手なタイプではなさそうというくらい。

「じゃあ急に俺らを誘わないで名字さんと来たらよかっただろ」

 まあ世田介君の言うことも一理ある。

「なにセカイ君焼きもち焼いとるん?」
「的外れだし気持ち悪い」
「名字さんとはもう最近どっか行ってたとか?」
「一昨日まで関西行っとったよ。二泊三日」
「フットワーク軽っ。昨日の今日じゃん」
「企画展と個展と何軒か付き合ってもろうてな。あ、京都で着物着た名前ちゃんがむっちゃ可愛いかってん。写真もあるよ」
「見ない。矢口さん、橋田に付き合ってたら日が暮れるから大概にしなよ」

 そう言って世田介君はスタスタと先にショップを出て行ってしまう。橋田は話を打ち切られたことを特に気にする素振りもなく、俺に一声かけてからレジに歩いて行った。俺も画集を買って早く出よう。

 名字さんのことはよくわからないままだけど、名字さんについて話す橋田は、美術を語るときとは別ベクトルの楽しそうな顔をしていた。

2021/4/26
back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -