ボドゲカフェにて

大学生になって初めての夏休みだ。
実家から大学に通っている私はもちろん帰省がないので遊びとアルバイトに明け暮れることができる。友達とテーマパークに行く約束をしているし、花火大会も外せない。できれば海かプールにも行きたいので新しい水着が欲しい。遊ぶためにもバイトを増やそう。

狂っても困らないようなぼんやりとした予定を立てていた私はいま、炎天下のテーマパークでも海でもなく、冷房が効いた部屋でテーブルを囲んでいる。

「ルールはやりながらもう一回説明するから、わからないことあったら言ってね」

友達が慣れた動きでカードを配る。やっていることはトランプみたいだけどカードの形はぜんぜん違っていて初めて見る物だ。

大学で仲良くなった友達は多趣味で、ボードゲームもそのひとつらしい。誘われてやってきたボードゲームカフェは壁一面にびっしりとボードゲームの箱が並ぶ初めて見る光景だった。

テーブルには私と友達の他に三人。みんな友達のボードゲーム仲間なんだとか。習うより慣れろという言葉もあるとおり、初めて触るゲームでも実際に手に取って考えながら遊んでみるとこれが結構おもしろい。十分ほどで決着がつくゲームは一見簡単そうなのになかなか勝てなくて、つい「もう一回」と口に出して何度もプレイするうちに一時間が過ぎていた。

「私トイレ行ってくるね。名前はここにいる?」
「うん、待ってるね」
「じゃあバッグお願い」
「おっけー、いってらっしゃい」

いったん休憩になり、改めて店内を見回してみると、席がほとんど埋まるくらい混雑していた。意外とボードゲームやってる人って多いのかも。

「名字さんボドゲ初めてなんだっけ?」
「そうなんですよ。カフェがあるのも初めて知ったくらい……鉢呂さんは慣れてる感じでしたね」
「俺はゲーム全般好きだからねえ。気になるのあったら教えるよ」

友達のボードゲーム仲間の一人、鉢呂さん。同じ大学一年らしいけどときどきお酒の話が出てくるからたぶん歳上。長く垂れた前髪と半分以上を刈り上げたアシンメトリーヘアにちょっとだけ身構えたけれど、ゆるい喋り方でわかりやすい説明をしてくれる人だ。あとたぶん背が高い。

「初心者におすすめなのありますか?」
「えーっとねえ」

鉢呂さんは手近な棚に並ぶボードゲームからいくつか選んで軽く説明をしてくれる。やっぱりわかりやすい。

「そういえば名字さん一年だよね?俺もだからタメ口にしようよ」
「その方がいい、ですか?」
「うん。俺浪人してるからたぶん歳違うけど気にしなくていいよ」

鉢呂さんがへらりと笑う。

「じゃあ、そうするね」
「あと俺のことはっちゃんって呼ぶやつ多いから、名字さんも呼びやすいように呼んでね」

笑った顔も喋り方もゆるくて、なんだか優しそうな人。少しだけ香る煙草の匂いも嫌ではなかった。

「はっちゃん……さん」
「あはは、いいよそれで」

見かけによらない可愛いあだ名を呼んでみる。今日知り合ったばかりだし、まだなんとなく、さん付けで呼びたい気分だっった。

2021/1/24
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