八雲と幼馴染
背もたれの無い椅子に座ると自然と背筋が伸びた。しかしそれも長時間になると背骨に沿ってじりじりと疲労を訴え始める。私たち以外誰も居ない美術室で木製の四角い椅子に座らされてはや1時間。と思いきや壁掛け時計の長針はまだ半周もしておらず目を疑った。膝の上に伏せていた携帯端末を見ても1,2分の誤差しかない。
「八雲、なんかしゃべって」
「あ」
「ふざけないで」
八雲はキャンバスに向かったまま子供の屁理屈のような声を出した。世界は自分を中心に回っていると錯覚していた子供がそのまま成長したような自信に満ちた八雲の目。その目が真剣な色で私とキャンバスを行ったり来たりしている。
「さっきみたいにゲームでもしてろよ」
「視線が気になって内容が頭に入ってこないの」
「わがままだな」
「どっちが」
誰のわがままに付き合って椅子の上で置物になっていると思ってるんだ。
しかし八雲がこうなのは今に始まった話ではないので急な呼び出しに応じてしまった数十分前の私を呪うしかない。帰って昨日録画したドラマが観たかったのに。
「ていうか何でいつも私なの」
「名前が一番暇そうだから?」
「最っ低。次からお金取るよ」
「パピコで勘弁」
「八雲が食べたいだけじゃん」
「名前も好きだろ」
好きだけど。それを1ミリも疑っていないところに、今だけは少し腹が立つ。
2020/5/31
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