※恐らく微裏。

暗くて暗くて、本当に怖いけれど、立ち止まれないままわたしは走り続けていた。
カツン、カツン、と後ろを追ってくる足音はとてもゆっくりなはずなのに、何故だか心臓がうるさいほど音を立ててわたしを急かす。

―早く、早く逃げなければ。

思考ばかりがそう急ぐ癖に、手足は驚くほど血の気が引いて冷たく、震えて感覚を捉えられないほど。…今のわたしは完全に、言うなれば“恐怖”の虜というのに相応しいかもしれない。
そっと影に身を潜ませて必死で息を潜める。…どうか、見つかりませんように。
何かに憑かれたかのように手を組んで祈るわたしは、きっと彼から見たらさぞ無様で滑稽なんだろう。

カツン、と響く足音が近くまで来て…通り過ぎることなくわたしのいる辺りで止まる。
悲鳴を上げることさえ出来ず、息を殺して目を閉じた。沈黙が辺りを支配する。
時が止まったかのような、ぴりぴりとした戦慄に似た空気が流れた。―次の瞬間。

「…見つけた。」
「ひっ…いやっ…!」

音も無くわたしの目の前に現れた彼によってわたしは呆気なく拘束される。恐ろしいほどの力、振りほどけない。
…以前の彼ならば、こんな事は絶対にしなかったはずなのに。

恐怖に苛まれ、もはやこれ以上の抵抗さえも許されず。ただ捕食されるのを待つ羊のような無力さで、わたしは彼の…佐久間次郎の成すがままにされるしかなかった。

***

「ふっ…う…。」
「…まだ我慢するのか。」

ぐっと歯を食いしばって、声が漏れるのを防ぐ。何があっても、絶対にこんな声は聞かせられない。

わたしを捕らえた佐久間は、何処だか分からない部屋にわたしを連れ込んで、そのままわたしを組み敷いた。
舌の根が凍るほどの恐怖。もう半分は大人の世界に入り込んでいる、これから彼が何をしようとしているか、分からないほどわたしは愚かではなかった。…いや、いっそ分からないままの方が良かったのかもしれない。

あっという間に殆ど半裸の状態にさせられ、乱暴に首筋に噛み付かれる。途中、何かの液体が首を伝うのを感じて、更にわたしの恐怖を煽る。…恐らく、この液体は血液、だろう。

「き、どう…さ…。」
「…っ!」

真上に見える、本来なら眼帯に隠されていて見えないはずの赤い瞳の輝きに、思わず雷門へ行ってしまった鬼道さんの姿を見た。…あの人なら、今の佐久間を止められたのだろうか。助けを求めるように手を伸ばしたその先が、例え幻影だと分かっていても、縋らずにはいられないから。

…しかし、ぼんやりと浮かんだその思考は、突如として下肢に走った鋭い痛みによって遮られる。

「…あっ…!い、いた、…い、た…い…!」
「…鬼道、じゃない…!…今!お前の前にいるのはっ…俺だっ!」

あまりの痛みに意識さえも朦朧としかけながら、最後にその佐久間の叫ぶような、身を切るような痛みさえ伴った声が聞こえた。
…そのあとの事は、何も思い出せないけれど。


14000のキリリク。梵磨様に捧げます。
佐久間※

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