※ifver〜もし風丸と付き合っていたなら Sun Like番外編。
「うわぁ…!凄いよ一郎太!満開だー!」
「そうだな。…って走るな、こけるぞ!」
俺と円堂は今、二人っきりで花見に来ていた。
雷門夏未嬢にこっそり稲妻町から少し離れた花見スポットを紹介してもらった甲斐があったのか、円堂も凄く楽しそうにその辺りを駆け回っている。
「うーん…でもやっぱり、こんなに綺麗に咲いてるんだったら皆誘えば良かったなぁ…。」
「…円堂、お前は…。」
思わず円堂の発言に俺は頭を抱えてしまう。…円堂の鈍感っぷりは相変わらずだ。
この間…ほんの一週間前くらいに、ようやく長年想い続けた円堂に告白して…その、まあ付き合うことにはなったのだが…。
「だってこれだけ綺麗なんだもん。二人で見るより皆で見たほうがもっと楽しいと思うんだけどな〜。」
…肝心の円堂は今までと全然変わってなかった。少しは“特別”になるのかと思いきや、今までの接し方と全く変わらない。むしろ俺の心持ちとしてはちょっとブルーになりつつあった。
付き合っているっていうのを内緒にしているっていうのもあるんだろうが…ていうかこんなこと恐ろしくて公表できない。
円堂に好意を寄せる奴なんてたくさんいる。それこそ星の数ほど。そいつらにバレてみろ、すぐさま裏で色々…そう、色々とやられるに違いない。
想像するだに恐ろしすぎる。…と言う事で、俺たちが付き合っているのを知っているのは木野と雷門しかいない(音無にも勿論秘密だ。あいつは絶対騒ぎ立てるから)。
「…あのな、円堂。」
不服そうな顔をしたままの円堂の腕を掴んでぐっと引き寄せ、そのまま抱きしめる。
相変わらず細い身体だ、ちゃんと食ってるのかこいつ。
そう思いつつ目の位置より少しだけ低く見える耳に口を近づけ、囁く。
「俺は、お前と二人っきりで見たかったんだよ。」
「っ!?」
耳の辺りで喋るということはした事がなかったからか、びくっと肩を震わせて驚いたように俺と目線を合わせようとする円堂に思わず苦笑する。…慌てすぎだ。
「な、一郎太…。」
「だってそうだろ?俺たちは一応“付き合ってる”仲な訳だし。」
そう言った途端彼女の白い頬にサッと血の気が上り、恥ずかしそうに顔を俺の胸元へと押し付けた。恐らく、顔を見られたくないからだろう。
博愛主義の塊のような円堂の事だ。突然俺以外の男子の事を喋るな、とか言うのは絶対無理だって分かっている。
だからこそ、せめてこういう二人っきりのときは彼女を独占していたい。
「…何か一郎太、変だよ今日。普段はそんなこと言わないくせに。
「そうか?…いっつもこういう事思ってるって言ったら…どう思う?」
拗ねたような声と共に、ぎゅっと背中に手を回され、更に俺たちの距離が狭まる。
桜の甘い芳香が香ってくるような風の中でただ二人っきり、身を任せあうかのように抱きしめあって。今だけは、桜に狂わされたと思ってもいいかもしれない。
「…ちょっとだけ、嬉しい…かも。」
「何だそれ。」
思わずその返答に笑うと小さな声で意地悪、と呟かれ、更に胸板が圧迫される感じがする。…今日は、俺だけじゃなくて、円堂も桜に狂わされたのかもしれないな。
そう思いつつ、微かに柔らかな髪の隙間から見える頬に軽く唇を寄せて。
さて、これからどうやって拗ねてしまった円堂を宥めようか、と考えを巡らせ始めた。
フリリク。ネオン様に捧げます。
風丸