※姉妹シリーズ。

夕香がずっと眠ってしまうようになってからは、よほど俺が意気消沈していたからなのだろうか、姉さんはずっと俺と一緒にいてくれた。姉さんだって夕香が眠ってしまって、少なからずショックを受けていたのであろうに、決してそんな素振りを見せることなく俺を叱り、励まし…そしてサッカーをもう一度始めるまで見守ってくれていた。
姉さんは、早くに母親を亡くしてしまった俺たちにとっての母親代わりの人。
だからだろうか、気付けば姉さんに依存していることも少なくなかった。…現に、今だって。

「あのね、お姉ちゃん!今日ね、作文書いたんだ!お姉ちゃんのこと一杯書いたんだよ!」
「あら、それは嬉しいな。どんなことを作文に書いてくれたの?」
「えっとね…頭がいいこととか、優しいとことか…。」

部活をやり終わってから帰宅してみれば、ソファの上で二人が仲良く話をしているのが目に入った。夕香が楽しそうに姉さんにもたれて久々の学校の話をしている。それに目を細めて優しげな微笑を浮かべ、白い手で夕香の頭を撫でながら話に相槌を打っている姉さんは、ことのほか嬉しそうな顔をしているように見えた。

「…ただいま。」
「あ、お帰りお兄ちゃん!」
「お帰り、修也。随分遅かったね。」

声をかければ2人が同時に振り返り、夕香が俺に飛び付いてきた。その様子を姉さんは目を細めて柔らかく笑っている。

「残念、夕香を取られちゃった。」
「姉さん…。」
「なんて、冗談。」

くすくすと笑う彼女を軽く睨めば、肩を竦められる。そしてまた顔に笑顔を浮かべて夕食にしましょうか、と立ち上がった。

***

夕香が寝てしまったのか、騒がしかったのが静かになったように感じる。父さんはどうせ、仕事で遅いのだろう。ぼんやりと考えながら机に頬杖をつく。…今は勉強に集中なんてとてもじゃないが出来なかった。
―と、ぼんやりしているとこんこん、と軽いノックの音と共に姉さんの声が聞こえてきて。我に返って返事をすれば、すぐに影のようにするりと姉さんが俺の部屋に滑り込んできた。

「…勉強中だった?」
「いや、全然。集中できてなかったから…。」

ならよかった、と笑う姉さんを前にして、どうしようと逡巡する。
夕香が目覚めてからこちら、幼い夕香のほうにかかりきりになってしまうのは当然の事だと頭では分かっていた。…分かってはいたが、やはり少しだけ…ほんの少しだけ、姉さんが離れていったことに寂しさを感じている、というのはやはりあった。

けれど、それを口にするのは憚られたから、なるべく姉さんとは話さないようにしていたのだ。…ともすれば、寂しい、なんて女々しいことを言ってしまいそうだったから。
姉さんを困らせたくない、というのと、もう中学生なのだからそんなことを言いたくない、というプライドもある。
口を開けば何だか凄く女々しいことを言ってしまいそうになって、口を閉ざしていると、ふいに姉さんは眉尻を下げてこちらに近寄り、俺の頭に手のひらを乗せて、そのままわしゃわしゃと撫で繰り回し始めた。

「…何をしているか聞いてもいいか?」
「むっつり修也の頭を撫で繰り回してる。」
「だれがむっつりだ、だれが。」
「え?修也以外にいるの?」

思わずむっとして頭から手を振り払えば、更に苦笑した表情になった姉さんがゆっくりと、今度は茶化した様子も無く切り出す。

「…甘えたいんなら、甘えてくれた方がいいのに。」
「、…何の話だ?」
「素直じゃないよね、ホントに。…構ってほしかったんでしょう?」

思わず詰まった俺を尻目に、姉さんはもう一度俺の頭をゆっくりと、慈しむような手付きで撫でた。幼い頃、よくこうやってもらっていたような気がする。そして、こうされるのが好きだった。

「我慢するのもいいけど…せめてお姉ちゃんに位は甘えてくれてもいいんじゃないの?…夕香には秘密にするから、ね。」

先程とは打って変わって、悪戯っ子のような笑顔で俺に笑いかけてくれた姉さんに、やっぱり俺は依存しているのだろう。
…とりあえずは、今まで放置されていた分、話を聞いてもらうとするか。

ナギ様に捧げます。
豪炎寺

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