これあげる、とさっき松野に渡されたポッキーを指でつまんで、首を傾げた。突然何だったんだ。まあくれるものはありがたく貰っておくけれど。
今日が11月11日で、例のお菓子会社の陰謀の日ってことは知っている。でも別に私と松野は仲がいいわけでもないのだ。チョコのついた側をさくさくと前歯で削りながら、やっぱり不思議に思った。
「何食べてるんだ?」
「風丸」
パッケージを見て随分考えていたようだ。風丸の声にはっとして顔をあげた。風丸がふっと笑う。袋からまた新しいのを取り出してくわえた。
「貰っていいか?」
「いーお」
歯でポッキーを支えたまま答えて、袋を差し出す。ありがとう、と返して、風丸はにこっと笑った。相変わらず綺麗な顔してるな。ちょっと、羨ましい。
笑った風丸は私の差し出した袋を手でそれとなく避けて近付いた。え、嘘、まさか、
「ん、」
私がくわえていない側を風丸がくわえた。顔が、けっこう近い。睫毛長いなとか鼻綺麗だなとか、冷静になろうとする、けど、心臓はどくどくと胸を叩いて、顔は赤くなる。ポッキーづたいに風丸が近付く。私は動けないままだ。このまま風丸は本当に近付いて、そうして最後には距離がゼロになるんじゃ、と思って、恥ずかしくなった。
風丸、と目で訴えようとするけど、風丸は力強い目で私の動きを止める。どうしよう、だって、うわあ、無理だって!きゅ、と目を閉じて手を握ると、一瞬風丸の匂いが広がって、口の先が軽くなった。
「ごちそうさま」
本当にあと少し、のところでポッキーが折られていた。風丸がそのまま、き、きす、するなんて考えた自分の頭に、いたたまれなくなる。
「顔、真っ赤だな」
「あああもう風丸はっ」
「その反応は、もう1ラウンド期待してもいいってことか?」
ポッキーをくわえて、悪戯っぽく風丸が笑った。
oroのうーさんより掻っ攫ってきてしまいました。
フリーだそうで…ありがたくいただきます^^