「さ、さ、猿!」
「ルール」
「え、るー、ルビー」
「ビール」
「る、ルッコラ」
「…ライフル」
「る、る、ルギア!」
「アヒル」
「ルンパッパ!」
「パイナップル」
「…明王くんわざとやってない?」
「同じの続けちゃいけねぇなんて決まりねーだろ」
「そうだけどー…」

口をとがらせてぶーぶー言っていたら、明王くんにほら早くしろよなんて言われてしまったものだから、わたしは脳みその中をひっくり返して必死に"る"のつく言葉を探した。でもわたしのひんそうなごいりょくではルンパッパが限界だ。その前もルギアだし。ルッコラって言ったときは自分でもすこし、やっべわたしちょっとかっこよくね?ことばたくみな女じゃね?って思ってたのに、次の瞬間ポケモンに走った時点でわたしの語彙力は小学生レベル決定だ。ていうか明王くん、最初は「なんでいきなりしりとりなんだよお前一人でやってろ」って言ってたくせにわりとノリノリだな。実はしりとりしたくて仕方なかったんだな。

「るー、るー、るーるるるるるる」
「狐でも呼んでんのかよ?」

明王くんはちいさく笑った。はんって鼻でわらう笑い方じゃなくて、本当におもしろくてつい噴き出しちゃったときの笑い方だ。ということはつまり、わたしの懇親のギャグは無事うけたということだ。いや、別にうけたくて言ったんじゃないけどね。まじめにるのつく言葉を探していただけなんだけどね。

「ヒント!ヒントをください!」
「しりとりにんなルールねえって」

お前あほだろ、という顔をして明王くんがこっちをみたので、わたしはしりとりへの熱い情熱やらなにやらを込めて、明王くんご自慢のそのモヒカンを拝むくらいの勢いで両手を合わせた。ら、今度は実際声に出して「お前あほだろ」と言われてしまった。ショック。しかしわたしは知っている。素直じゃない明王くんは、なんだかんだ言いながらも結局はわたしにヒントをくれるということを!眉間に皺を寄せてすこしの間地面をみつめていた明王くんは、至極めんどくさそうな顔をして、はあっと息を吐き出した。

「自分以外の家族が全員でかけてて自分ひとりだけがうちにいるとき、何をしてるっていう?」
「えっ、うーんと…、あっ!るすばん!……あれ?」
「ばーか」

"ん"がついてしまった。騙された。ていうかよく考えれば留守番じゃなくて留守っていえばすむ話だった。わたしばかすぎる。明王くんに舌を出してばーかと言われても何も文句は言えない。

「これで終わりな」
「えー、すごく納得がいかない…」
「俺にヒントをもとめるのが悪いんだよ」

だってわたしの頭の中にはもう"る"のつく単語が存在しなかったのだから、もしヒントをもらわなかったとしたらわたしの負けは確定だった。だったらこの終わり方もまあ仕方ないのか…いやそんなことはない。そもそも明王くんが"る"攻めをしなければ、ほぼ永久的にしりをとり続けられたはずなのだ。

「それはねえだろ」
「あっ、あるよ!えいきゅうてきだよ!」
「どうせ俺が口出ししなくてもルナトーンとか言って自滅してただろ絶対」

な、ないとは言い切れない自分がくやしい…。っもう!どうせ、わたしが口で明王くんに勝とうなんて地球がひっくりかえったって宇宙から侵略者がやってきたって未来からひ孫がやってきたって無理な話だったのだ。負け犬はいさぎよく身の程をわきまえますよーふんだ!と明王くんに"る"攻めをされたときよりもぶーたれながら上を向いて歩いていたら、空があまりにもそれがきれいな色をしていたものだから思わず見入ってしまった。そういえば、いつのまにこんなにあったかくなったんだろう。ついこの間まではコートがないと外に出られなかったのに。

「もう四月だもんなあ」
「上ばっか見てると転ぶぞ」
「こーろーびーまーせーんー」

明王くんはなにかとわたしをばかにしすぎだ。そりゃあ明王くんとくらべたらだいぶ劣る頭だけれども。でもだからって、空を見すぎて転ぶほどばかの王様ではないよ、わたし。

「明王くん、空がきれいだよ」
「んなの見りゃわかる」
「見てないじゃん」
「お前の顔みてりゃわかるっつの」

やっぱりめんどくさそうな顔をして、明王くんは横目にわたしをみた。長いまつげが目の下あたりに影を落としていてきれいだ。横顔を見るたび思うけど、明王くんのまつげはお人形さんのように長い。すごくうらやましい。空もきれいだけど、明王くんもきれいだなあ。いや、明王くんだけじゃない。見慣れた道路も、道路に伸びた影も履きならしたパンプスも、なんだかこの世に存在するありとあらゆるものすべてがきれいにみえてくる。ああ、わたしはきっといま幸せの絶頂にいるのだ。

「えへへ」
「何一人で笑ってんだよ」
「べっつにー?」

口に出したら、明王くんはまた鼻で笑うだろうから言わない。お気楽でいいな。とかお手軽だな。とか言われてしまうだろうから、心の中でこっそり思っておくだけにする。となりに明王くんがいて、それだけでもうわたしは、世界すべてがきらきらしてみえるくらい幸福になってしまうのだ。ちょっと嫌なことがあったとしても、明王くんがとなりで、いつものすこし鼻にかかった低い声でひとことふたこと話しかけてくれるだけで、嫌な気分なんてどこかへ吹っ飛んでいってしまうのだろう。

「あっ!そうだ!桜もう咲いてるかな?」
「どーだろうな」
「行こう!いまから!桜!」
「あーわかったからはしゃぐな。まじで」

転ぶぞ、という声が聞こえた瞬間、明王くんのまわりをぐるぐるまわっていたわたしは、見事ターンに失敗し足首がぐぎっとなって転倒した。しかも後ろに。直前で明王くんが腕を掴んでくれたので、頭を打つことはなかったけど、それでもやっぱり地面にぺたりと座りこんでしまった。ごめんなさい、今日からはばかの王様と呼んでください。

「…お前さあ、」
「うっ、はい、ばかです」

地面に座り込んだわたしに目線を合わせるようにして、明王くんもしゃがみこむ。恐る恐るその顔をのぞきこむと、てっきり呆れているのだとばかり思っていた明王くんは、すこしだけ楽しそうだった。ほそめた目元のやさしさにびっくりを通り越してどきどきする。もしかしたら明王くんも、いま幸せの真っただ中にいるのかもしれない。そうだとしたら、わたしはさらに幸せだ。

「ほんっとあほでドジでばかだな」
「ぜ、全部言わなくてもいいじゃん!」

わたしたちは限りなく広い世界の中でこんなに近くにいて、いっしょに幸せを共有している。これほどうれしいことって他にあるだろうか。この幸福にくらべたら、他の小さな不幸や不運など微々たるものにすぎないのだ。ほら、世界はこんなにも輝いている!


くちなしの森へ
愛をこめて


ろーちゃんから頂いたあきおです。素敵なレイアウトを台無しにしてますね分かります(^q^)
直リンできなかったんだよ…(´;ω;`)

あきおにあきおで返してもらったは良いものの…何だかすごいほのぼのゆったりする神文をいただいてしまって逆に何か申し訳ない…!!
ありがとうろーちゃん!


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