ぽっこりと膨らんだ女の腹には、未知なる新しい生命が宿っている。そう考えると何だか触れるのさえ少しだけ怖くなって、彼女の腹に手を添える程度しか出来なくなった。
その様子がおかしかったのか、目の前の彼女にくすり、と笑われて少しだけ顔に熱が上るのを感じる。

「…ンだよ」
「そんなにおそるおそる触らなくても、簡単に壊れたりしないよ?」
「…うっせ」

心底楽しげに図星をつかれて、それが無性に気恥ずかしくて彼女から目をそらした。…手は、そのまま彼女の腹に置いたまま。
温もりとと共に微妙に伝わる小さな脈動に実感が沸いてくる。…これからは、もう1人守らなければならない奴が出来るのだ、と。

正直、不安だった。俺は全うな家庭など知らないのだ。弱い父親など敬意を払う相手ではなく、強さにすがる母親も、同情こそすれど愛情など持てなかった。
荒んだ家庭しか知らない俺が、果たして目の前にいる彼女と、彼女の腹に宿った新しい命を“幸せ”にしてやれるのだろうか?

ゆっくりと、腹に置いていた手でそこを撫でれば、不意に俺の手のひらに小さな衝撃が走った。…なんだ、今のは。

「あ、動いた。明王、分かった?」
「あー…今の、動いたのか?」
「うん、お腹を蹴ったみたいだね。…明王が今にも死にそうな顔してるからじゃない?」
「オイコラ」
「うそうそ、冗談だって」

くるくると喉を鳴らして穏やかに笑う彼女はあくまで楽しげだ。…今更ながら、彼女は悪趣味だと思う。俺みたいな男に惚れて、挙げ句子供まで作っちまって。…まあ、子供の件は俺にも責任があるのだが。

「…お前さあ、不安とか感じないわけ」
「不安?何に対しての不安なの?」
「…これから先の事、とか…」

自分でも歯切れが悪いと分かる口調で呟く。らしくない?そんなことは承知済みだ。けれど、知りたかった。彼女がどう思っているのか、どうしても。

「…あのね、いつも言うけど…明王と一緒に居られたら、それで良いの。…わたしが我が儘言ってあなたの傍に居座り続けてた、そうでしょう?」
「…」
「ねえ、今わたし、すごく幸せだよ。…わたしは明王が一緒に居てくれたら、それ以上は何も望まない」

柔らかな笑み。細められた慈愛の色を含む優しげな瞳が真っ直ぐ俺を射抜く。
ああ、やはり彼女は悪趣味だ。俺が無意識に欲しがる言葉ばかりをくれる。そんなだから、俺は彼女から離れられないのだから。

「…良いのかよ、そんな事ばっか言って…後で後悔しても責任とんねーぞ」
「大丈夫、後悔するときは明王も一緒だから」

少し気恥ずかしくなって、乱暴な口調で言ってやれば、彼女は笑ってそう言い返す。白くて冷たい手のひらが俺の手に重なる。きゅっと控えめに握られれ、衝動的にそれを握り返した。互いの指先からじんわりとした温もりが漏れて、異常なまでに心地よかった。…この温もりが、きっと“幸せ”と言うことなのだろう。

「…あ、また動いた」
「ああ?よく動くガキだな」
「きっと明王似なのね…将来ハゲなきゃ良いけど」
「俺のは自分で剃ってんだ!ハゲじゃねえ!」

分かってるってば、とでも言いたげに笑う彼女。こんなに穏やかならば、この先もずっとずっと、続いてほしいと願う。…全く、今日はらしくないことばかりだ。

「…早く、産まれてきて欲しいね」
「…おう」

けれど、そんな自分も悪くない。むしろ、今の自分ならば、きっと。


青い幸せを探そうか



viviのろーちゃんに20000hitのお祝いに!
駄作でごめんなさい…こんなんでももらってくれるろーちゃんホントに大好きだ!


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