暗い廊下の突き当たり、見慣れた部屋の扉をノックもせずに勢い良く開く。驚いたようにこちらを振り向いたセルリアンブルーの瞳の持ち主に向かって軽く声をかけた。

「やあ」
「…やあじゃないでしょう。仮にも女の部屋よ、ノックぐらいしてちょうだい」
「いいじゃないか、別に。別に着替えていたわけじゃないだろう?」
「そういう問題じゃないんだけど…」

呆れたと言わんばかりの溜め息と共に直ぐに俺に背を向けた彼女にするりと抱きついてみる。制服に隠されているせいで分からないが、細すぎると表せる程の体系の腹に手を回せば、やめて、と淡白にそう返された。

「邪魔になるから止めてくれる?ついでに言うと出て行ってくれると嬉しいわ」
「やだね。何をしようが俺の勝手だろう?…で、何をそんなに熱心にしてるわけ?」
「明日のディベートの為の資料作りよ」

こちらを見ることも無く黙々と淡々と作業を続けていく彼女の、背中の中ほどまで流れる銀髪をかき分けて首筋に額を押し付ける。香水の類のような取ってつけたような香りが一切せず、清潔さのみを漂わす石鹸の香りを吸い込む。…この女っ気の無い香りが、実は俺の好みだったりするのだ。更に鼻先まで白い首筋に押し付ければ、嫌そうに彼女がこちらを振り返った。…ああ、漸くこちらを向いてくれた。

「…過去に行くそうね」
「へえ…知ってたんだ?」
「兄様に聞いたの。あとエスカさんもご一緒なさるって聞いたわ。…くれぐれも兄様のお荷物にならないようにしてちょうだいね」

双子の兄であるはずのバダップとは似ても似つかぬ澄ました顔をしてしれっとそんな事を言い放つ彼女の顔をじっくり眺める。兄と共通する所など、冷静沈着な性格と美しい銀の髪ぐらい。頭が切れるのは兄と同じではあるが、彼女は軍人というよりも参謀向き。頭の回転は怖いくらいに良いが、戦闘能力が皆無であるため今回は俺たちとは共に行動は出来ない。…残念といえば、残念だ。

「…俺の事を応援してくれないのかな?」
「他の女の子に応援してもらっているのでしょう?」
「俺は君から応援してもらいたいんだけどな」

再び顔をパソコンの方に顔を向けてしまった彼女に再び彼女に擦り寄れば、彼女は呆れたように息を吐く。

「…何故、私なの?他の女の子でも構わないでしょう?」

冷たい海の底の色を持つ瞳が一番にこちらを捉えることは殆どない。大体は兄へ尊敬を伴って向けられることが多く、あくまで俺は二番煎じにすぎない。…その、他の女の子とは違う淡白さが、俺をやたらと燃えさせてくれるのだ。普通の女の子なら直ぐに俺を褒め称え、羨望と尊敬の眼差しを向けてくれるものを、彼女は兄を一番に見上げ、その格下である者を見るような目で俺を見る。

…そう、彼女は一度も俺を兄と同列に見ない。それは、彼女の中では俺は取るに足らない相手だと思われているということだ。

「…俺は君のその全然女の子らしくない所とか、結構気に入ってるんだよね。…あのバダップの双子の妹ってのは腹が立つけどさ」
「あらそう。私は誇りに思っているけれどね」
「…まあいいや、いつか必ず俺の方が君の兄貴よりも優れてるって事、分からせてあげるよ」
「…有り得ないわ。貴方が兄様よりも優れているなんて…」

ふん、と鼻を鳴らして俺を睨む美しく輝くセルリアンブルーの瞳は、確かな意思を持った強さを秘める瞳。ただの軟弱でうるさいだけの女の子とは異なる美しさを持つ彼女特有の輝き。…これは、落としがいがありそうだ。

「…覚悟していて、必ず俺に夢中にさせてあげる」

にやり、と口端を吊り上げた俺を見て嫌そうに眉を顰める彼女。…さて、その顔がいつまで続くのか、楽しみになってきた。…必ず、落としてやる。


陥落狙いの瞳


(かなり)遅ればせながらカナに捧げます!
一万打おめでとう^^


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