「うー…。」
「何だ、今日はやけに大人しいな。腹でも壊したか?」

机に顎をつけ、唸り声を上げる志和に俺は思わず目を細める。…珍しい事もあるものだ。
常日頃からカップリングだのBLだの大声で連発し、しかも俺をことごとくそのネタ扱いするある意味恥知らずな従姉妹の元気が無いのだ。
身内としてはやっぱり気になるものだろう。

俺の髪と同じ様で、けれど少しだけ色素の薄い水色の髪を撫でる。気持ち良さそうに目を閉じた彼女につられて、俺も少しだけ口許を緩めた。

…本当に、黙っていれば単なる可愛い女の子なのに。つくづくこいつは色んな意味で損をしてるとしか思えない。

「で、どうした?元気がないなんて珍しい。」
「…一郎太、あたしの事一体何だと思ってるのさ。」
「口が減らない、常にかしましい傍迷惑な従姉妹。」
「ちょっ…、ひどっ!その言い草は酷い!」

俺の評価が気に入らなかったのか、志和がぎゃあぎゃあ騒ぎ始める。…俺は思ったことを簡潔に述べただけなんだが。

「大体、一郎太が悪い!」
「何でだよ。俺、何かしたか?」

びし、と効果音がつきそうな動作で指先をこちらに向けられ、思わず怯みそうになる。
唐突に何か突拍子も無いことを言い出すのはこいつの専売特許だが、だからと言ってやはりその矛先が突然自分に向くのには慣れない。
いや、別に慣れたい訳じゃないが。

「何もしてないのが悪いの!」
「はあ?」
「円堂!取られちゃうよ、一郎太の旦那なのに!」
「…またその話か…。」

いい加減聞き飽きた台詞に溜め息を吐く。こいつが円堂に出会って何回この会話を繰り返してるんだろう、もう数えきれない。
志和も志和でよくもまあ飽きないものだ。その執念にだけは敬意を払いたくなる。

「だからあいつはただの幼なじみだって。何でお前の中でカップリングになってんだよ。」
「別にあたしだけじゃないよ。円風は公式だもん、王道だもん。譲れないでしょ!」
「何だその公式って…ていうか王道じゃない。」

ぷすっという空気が抜けたような音を立てて頬を膨らませた従姉妹に呆れの視線をおくれば、更に拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
…ああ、完全に機嫌を損ねてしまった。

「一郎太の分からず屋。」
「どっちかっていうと分からず屋はお前だろ…。」
「そういう所が分からず屋なの!」

こちらを見ようともせずに俺への文句を垂れ流す志和に苦笑する。
…さて、どうやってこの拗ねてしまった従姉妹の機嫌を直そうか。
そう考えつつ、もう一度俺は志和の頭に手を伸ばした。


(早く円堂とくっついてよ。)
(聞けない注文だな。)
(一郎太のバーカ!)
(…はあ。)


風、吹くままに、の天野彼方さんへ相互記念として献上。


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