ぽす。
練習が終わって、一人川原の草むらに腰掛けていたら、緊張感の無い効果音と共に頭に何かの違和感を覚える。
何やら草の香りが頭の上からほんのりと存在を主張していた。

「…なまえ。」
「えへ。作ったんだ、花冠。」

後ろを振り返り、半眼で見やればなまえはぺろ、と下を出して悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、すとんと隣に座り込む。
そのままにこにこと子供のような笑顔でお疲れ様、と言う彼女に苦笑して頭に手をやる。
指先があたった柔らかい草の感覚を感じ、ひょい、と頭に乗っていた柔らかなそれを取ると、あー!と言う非難の声が上がった。

「何で取っちゃうの!?一郎太、可愛かったのにぃ…。」
「あのなぁ…。」

男が可愛いって言われても嬉しくないと何度言ったら彼女は分かってくれるのだろうか。
俺は一つ溜め息を吐いて花冠を持たない手で前髪を掻き揚げた。

「なまえ、男が可愛いって言われても嬉しくないんだが。」
「だって、可愛いものは可愛いんだもん。偶にわたしよりもスカートとか似合いそうなときもあるし。」

花冠を取られたことにまだ拗ねているのか、なまえは頬を膨らませてそっぽを向く。
コイツの子供っぽい言動や行動は幼い頃から全く変わっていない。
ちらり、と手に持った花冠に目をやると、綺麗な編みこみがちらほらと覗いている。
これはかなり手を入れて作ったな、と思いながらくるり、と花冠を回した。

「ね、お願い、もう一回つけて!」
「断る。何で着けないといけないんだ。」
「可愛いから写メ取りたい。そして鬼道くんに送るの!」

携帯電話を構えてにこにこ邪気無く笑う彼女はそれはもう文句無しに可愛らしいが、言っていることは物凄く嫌な事だ。
そして何故俺のそんな恥みたいな格好を鬼道に送るんだ。

突っ込み所は色々あるが取り合えずそれらをぐっと飲み込んで一番言いたい事を何とか搾り出す。

「何で鬼道なんだ…。」
「優しいし、よく頭撫でてくれるし、メールも返信してくれるから!」

キラキラと輝く目に気圧される。
ぶんぶんと振られる犬の尻尾を見た様な気がした。頭撫でてくれるからとか、お前は構ってもらいたがりの犬か。

「…絶対やらないからな。」
「えー。何で〜?」
「何ででもだ。…それにな、なまえ。」

ほへ?という間抜けな声を出した彼女の頭に持っていた花冠をぽすり、と乗せ返した。
そしてそのままぽんと頭に手を置くとそのままわしわしと撫でる。

「こういうのは、お前がやってる方が可愛いぞ。」

耳元でそう呟いてやれば、彼女は顔を赤くしながら嬉しそうにはにかんでいた。
うん、やっぱり花冠は彼女がしている方が可愛い。
何の脈絡も無く恥ずかしげも無くそんな事を考えている自分に軽く苦笑を漏らした。


(おい、鬼道。お前、なまえの頭を撫でたりしてるのか?)
(ああ。撫でると喜ばれたから、つい…。)
(…妹感覚か。)
(いや、どちらかと言うと…愛玩動物みたいな感覚だが。)
(つまりペットなんだな…。)

光冠の怜さんに相互記念として献上。


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